第99話
夕食後、佑樹とエンリケは酒を酌み交わしながら話をしている。
「驚いたな、レオンが
いったいどんな魔法を使ったのかと言いたげに、佑樹を見ている。
「魔法なんて使えないし、人を従えさせる魔法の言葉なんてものもないよ。
ただ、エンリケたちと違うのは、俺にはレオンに対して先入観が無いってことだな。」
「先入観、か。」
確かに先入観はあるだろう。
まだ大人扱いできない未熟者。そんな認識があったのは確かなことだ。
それがない佑樹は大人として扱っており、色々とやらせている。
ヒントこそ与えはするが、答えは自分で出させている。
「だが、レオンが残るとなるとクロエにも伝えないといけないな。」
クロエとは、レオンが婿入りすることになっているユトリロ子爵令嬢のことだ。レオンと一緒にこの天空の城にも来ている。
「まだ結婚はしていなかったのだったか?」
「ああ。
元々、結婚はクロエが16歳になるのを待って執り行うことになっていたからな。」
この世界では人族は16歳というのが、成人としての一つの目安であるらしい。
「再来年の6月の予定ではあったな。」
戦いのこともあり、流動的になっているようだ。
「クロエも残るのかどうか、その意思を聞かねばならんな。」
エンリケが口にするが、
「そこはレオンに任せておけ。
たとえ政略結婚だろうと夫婦になるのだから、俺たちが先んじて動くのは良くないと思うぞ。」
夫婦の問題は夫婦で解決させなければならない、佑樹はそう言う。
「まあ、それもそうではあるな。」
エンリケも了承する。
そして二人の話題は、ガスパール領との交易へと変わっていく。
ーーー
「クロエ。
少し話があるのだが・・・」
レオンはクロエの部屋に戻ると、すぐにそう話しかける。
大人しそうにみえるクロエだが、武門の名家ユトリロ子爵令嬢である彼女が大人しそうに見えるのは、あくまでも外見だけであることをレオンは知っている。
言葉を選びながら、はっきりと自分の意思を示す。そしてクロエに尋ねる。
「俺はしばらくここに残る。
クロエはどうする?」
それに対してクロエの返答もはっきりしている。
「当然、私も残りますわ。」
凛とした声で宣言する。
「レオンという、私の伴侶となる人物をより深く知るには、とても好都合ですもの。」
クロエの言葉は澱みなく、その視線はしっかりとレオンを見据えている。
「わかった。
ならば、ユウキ殿にも伝えなければ。」
そう言って踵を返して行こうとするレオンをクロエは呼び止め、
「私も一緒に行きます。」
と、レオンの隣に立ち、一緒に佑樹の部屋へと歩き出した。
ーーー
「俺の勝ちだな。」
レオンとクロエが二人で部屋に入ってきたところ、それを見たエンリケがニヤリと笑みを浮かべながら佑樹に声をかける。
「レオンのことしか知らなかったのが敗因か・・・」
たいして悔しくもなさそうな口調の佑樹。
「なにか賭けでもしていたのですか、俺で。」
嫌そうな口調で確認するレオンに、
「そうだぞ。」
と、異口同音に答える二人。そこには悪びれる様子はカケラもない。
「なにを賭けていたのです?」
クロエの質問に、
「食糧の代金の値引率だよ。」
佑樹がそう答え、
「俺が勝ったから15%の値引になった。」
と誇らしく話すエンリケ。
「兄上が負けていたら?」
「5%の値上げだ。」
「なるほど・・・」
レオンは良かったのか悪かったのか、すぐには判別できぬ表情で二人を見ている。
「それは良いことでした。」
クロエは前向きに捉えている。
「クロエ嬢が留まるなら、マリアナに相手をさせることにしよう。」
「姉上ならば、間違いはないな。」
レオンを他所に置いて、佑樹とエンリケは
ーーー
「というわけで、レオンと一緒にクロエも残ることになった。
そのクロエの相手をマリアナに任せたい。」
善は急げとばかりにマリアナを呼びつけると、佑樹はそう伝える。
ただ、マリアナの方では驚きはなかったようで、
「わかりました。
ですが、アレシアと一緒ということでよろしいでしょうか?」
そう確認をしてくる。
アレシアと一緒であることに、佑樹としては否もない。
そのことを伝えると、
「クロエ、明日からよろしくお願いしますね。」
とクロエに笑みを浮かべながら挨拶をする。
「はい、こちらこそ高名なマリアナ義姉様にお相手していただけるなんて、夢のようです。」
クロエもまた、かつてはガスパール侯爵家の後継者にと望まれた女傑に憧れていたようで、憧憬の目でマリアナを見ていた。
異世界にて、天空の城をもらいました 久万聖 @Kuma1973
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