非リア充の日常系

 読者に負担を掛けない平易な文章でありながら、格調は落とさない。
 おそらくアマチュア作家のなかでは上位数パーセントに入る文章力の持ち主であると言って良いだろう。
 その典雅な文章で語られるのは、さぞかしシャレオツーな男女がバスタでも茹でながら「やれやれ」などと詠嘆し交尾……じゃない、愛を確かめあったりするリア充の生活なのだろうと普通は思う。
 ところがである。なぜか文章とは不釣り合いな非リア充の生活が描写されていく。
 喩えるなら、小田和正の美しい声で嘉門達夫を唄われたら感じるであろう不思議な感覚である。
 
 私は書き手としても読み手としても、あくまでも虚構性を強調した作品を志向している。ドンパチがあったり超常現象や謎の組織などが出てくる話を好む。
 この作品とは正反対のベクトルといって良いだろう。だが、コテコテのエンターテインメント小説の書き手もこの作品から学ぶ面は大きいと思う。特別な事件の起こらない日常描写に説得力を持たせることは虚構の説得力にも繋がるだろう。
 もちろんサンダルウッド氏のような文章力は一朝一夕で得られるものではないが、ひとつの手本として参考にできるのではないだろうか。

その他のおすすめレビュー

宮本摩月さんの他のおすすめレビュー3