第94話 CHOICE⇐
──その数時間ほど前。
本拠地に残った私──ファルとケイ、そしてシオンは朝から調べ物に勤しんでいた。
その内容は言うまでもない、
私と目的は違えど、想いは同じ。自分達、そして仲間を苦しめる秘密スキルを制御および消去する方法を見つける事。そして、団員は何より団長オスカーを助けたい、そんな一心で。
少しでもいい。その為のきっかけなら、もうどんな些細な事でも良かった。
この間アルテミスがラミンヘルンの図書館で借りてきた書物を、三人それぞれが黙々と片っ端から読み漁り、そのヒントを探す。
「この騎士団のスキル保持者は何人いる?」
しばらくして私は、姿勢よく隣に座る見た目15、6歳くらいの少女に尋ねた。
彼女は、薄紫色のサラサラ髪を後ろでひとつに束ねており、綺麗な横顔を一切変えることなく、淡々と分厚い書物のページをめくっている。
「
そんな異常な報告を、彼女は視線をこちらに向けることなく答えた。
「その中に、私とシオンも含まれるわ」
大きな長方形のテーブルの向かいに座っていたケイも、会話に割って入ってきた。
「えっ、君たちも……? いや、それどころか、この騎士団だけでそんなに存在するなら、総数はその何十倍、いや何百倍の可能性すらあるという事だな?」
もしそうだとしたら、あのバグと関係が薄くなってくる。なぜなら、想定されている数は──
「いえ、、、その可能性は極めて低いかと」
「どうして?」と私が尋ねる前に、難しい顔をしたシオンが言葉を続けた。
「恐らく……
「……20人?」
その言葉で、私にはとある確信が芽生えてしまった。
総数が一致している。報告されていたバグの数と、当時の
「そして、その中でも特別なスキルと呼ばれているのがNO.1からNO.3。それらの内容はどうやら本人が他言する事を禁じられているようでして、未だ明らかになっておりません。ただ、当時の騎士団内では、『非常に強力な上、各ユーザーが一度きりしか使用できないスキルだ』という噂がありました」
シオンは続けて、自身がNO.18、ケイがNO.4の
「その後、私達の騎士団は方向性の違いから内部分裂が起こり、いくつかの騎士団に分かれて活動する事となりました。これが……ここまでに至る経緯です」
私は十代半ばの子が話しているとは思えない落ち着きように驚きながらも、自分の中でもうひとつ気にかかっていた事を尋ねる。
「アルテミスは、オスカーを誘っていったい何を──」
──ガタッ!
「アルテミス副団長……まさかっ!?」
突如、隣に座るシオンが勢いよく立ち上がった。それと同時にひらりひらりと一枚の紙切れが床に落ちる。
「な……どうし──」
私はその落ちた紙切れを拾いながら、シオンに尋ねかける。すると、それに被せるように彼女は答えた。
「副団長はもしかすると、団長の全ステータスを記憶もろとも消すつもりなのかも知れません」
さっきまで冷静だったシオンの声が上ずっている。
「「……えっ!?」」
私とケイは目を見開く。
そして、私は拾い上げた紙切れの内容を目にしてようやく理解した。
そこには『
「これって、副団長の
シオンの思考回路にケイはついていけないと言った様子で、混乱と動揺に襲われている。
「つまりこれは、そのスキル──
そういう事。アルテミスは全てを無かったことにするつもりなのだ。
オスカーがこのゲーム──【
そして、アルテミスを愛していた事も。
そうか。だからアルテミスはオスカーを連れて……。
気づくのが遅すぎた。
「おい、シオン! アルテミスの行き先に心当たりはあるか!」
「はい……何箇所か」
放心しているのか、呆然としているのか、シオンの返事は心ここに在らず。
「今すぐ案内しろ」
私が行ってどうこうなる問題なのだろうか。もし止める事が出来ても、オスカーがこの世界から出ていってしまうのなら二人にとっては一緒の事だろうか。
…………いや、違う。帰ってもなお、心に残るものがある。記憶に残る思い出がある。決して無かったことに何かするべきではない。だから、アルテミス。どうかそんな悲しい選択はしないで欲しい。
今思い浮かぶのは、余興でのオスカーとアルテミスの優しい笑顔。
私はだんだんと雨足の強くなっていく天気の中、ケイに留守番を任せ、シオンと拠点を飛び出した。
……To be continued……
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次回:第95話 RAIN⇐
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