第18話「エピローグ」

 一週間後――


 グレンは装備を整えていた。レザーアーマーを着込み、鋼の剣を腰に下げる。


 部屋の奥には、刀身の折れた古びた剣が飾ってあった。


 ヴァンが使っていたとされる伝説の聖剣である。

 カ・ディンギルの最奥に眠っていたものだが、真っ二つに折れていてとてもではないが戦闘に使える代物ではなかった。

 鍛冶師に見せたところ、確かに特殊な金属で出来ているようだが、魔法の力を持っているわけでもなく、今のところ使用用途はない。観賞用となっていた。


 しかしそれでもグレンは満足していた。ダンジョンに向かう際には、その聖剣に触れてから出発するのが習慣になっていた。


 憧れのヴァンに近づけた気がした。もっと強くなれるような気がした。


 玄関の扉を施錠し、グレンは家を出る。


 その後ろで……草むらがガサガサと動いていた。


 現在、グレンはA級ダンジョンを攻略中だった。


 パーティは組んでいない。ソロだ。


 グレンはフロアの中心で背後を振り向く。


 支柱の陰に、誰かがスッと隠れたように見えた。


「……いや、気のせいだろう。ここ一週間は大人しかったはずだ」


 このときグレンはまだ気づいていなかった。

 

 それは、この一週間、ただ単にピンチに陥ることがなかっただけなのだと。


 そして、そのときが来る。


 魔物の首を斬り落とし、ペガサスの翼を広げ、グレンの目の前に舞い降りる女騎士――


「お怪我はありませんか、グレンくん」


「ソフィア……どうしてここに」


 聞いても意味などないと分かっていながらグレンはそう口にしてしまう。


 一体何度そのフレーズを耳にしただろうか――


「“偶然”居合わせたから、助けたまでです。お久しぶりですね!」


 しかし以前と違って、グレンが呆れるくらいの明るい笑顔で、ソフィアは言った。

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俺がピンチになると必ず助けてくれる女騎士がいるのだが、この人はもしかしたらストーカーかもしれない 紅瀬流々 @kureseruru

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