第3話 「共生」がホントの最終形
最後は少々哲学的なお話になります。
ウイルスはなぜ発現したのか、人間はなぜ生まれたのか、そして究極的には「生命」はなぜ発現したのか、というお話です。この疑問に対する科学的根拠が解明されれば、ホントの意味での最終形が見え、それは将来新たな別のウイルスが発現した時の対処法にもなりうるでしょう。
第1話では、ウイルスは人類の自然淘汰のために発現したと論じた。でもこう書くと、そもそも人間はなぜ発現したのかという超哲学的な話にもなってしまう。さらにこの議論をどんどん遡ってゆくと、「生命」はなぜ発現したのかという話になる。この点については、すでに多くの諸説があり、中には神が創造したという宗教的な説まである。
ウイルスは人の目には見えないほど小さい。でも、それは単に人の目の解像度が低いだけで、電子顕微鏡で見ればハッキリと形も見える。ウイルス自体は巨大なたんぱく質(有機化合物)でできており、このたんぱく質はこれまた無数の原子でできている。ウイルスも人間も元をたどれば水素原子や炭素原子の塊でしかない。それが決められた順序で並び、結合することで生命は発現した。なぜか。
この世の物質は大きく分けて無機物と有機物がある。無機物は鉄、石ころ、空気など、いずれも単なる原子の集合体でしかない。どんなに大きな鉄の塊も所詮は鉄原子が無数に集まったモノでしかない。鉄の塊は一見頑丈そうに見えるが、宇宙的な時間の長さの中では、いずれ原子レベル(究極的には素粒子レベル)まで崩壊し雲散霧消して消える運命にある。
これに対し、有機物は無数の原子が強固に結合してできており、その中に組み込まれた原子は崩壊することなく安定的に存在する。さらに、この有機物が無数につながり生命となると、「再生」という機能が加わる。生命は生き続ける限り、材料をかき集めて有機物を作り続ける。そして有機物の中に組み込まれた水素原子や炭素原子は安定的に存在し続ける。
生物学の観点からは、ウイルスは人の命を奪う危険な存在だが、物理学的にはウイルスは「エントロピーの増大」を防ぐという重要な役割を担っている。エントロピーとは、一般的には無秩序あるいは乱雑さと訳され、この宇宙は何もせず放っておくとエントロピーがどんどん増大して最後は素粒子レベルまでバラバラになってしまうと言われている。先に述べた、無機物がバラバラになって崩壊するのもエントロピー増大の一例である。
これに対し、有機物あるいは生命はエントロピーの増大を抑える方向に作用する。大げさな言い方をすれば、「生命」は増大する宇宙の無秩序を抑制するために発現した、つまり生命の発現には「必然性」があるということになる。
「一寸の虫にも五分の魂」というように、仏教では虫けらですら無用な殺生を禁じている。生物の命を絶つということは宇宙の崩壊につながる恐れのある行為だからである。それはウイルスにも当てはまる。物理学にとっては、人間もウイルスも「等価」であり、いずれを殺すこともエントロピーの増大につながる。人間が生きたいと思うのは人間のエゴであり、ウイルスもまた必死に生きようとしている。だから、憎たらしいと思われるかもしれないが、ウイルスの存在を肯定してやることができれば、感染症問題を恒久的に解決するカギが見つかるかもしれない。
生物学の世界には「共生」という言葉がある。つまりお互いが相手を必要と認め、共に生きるという意味である。典型的な共生の例としてよく取り上げられるのが「ミトコンドリア」である。ミトコンドリアは人の細胞の中にある器官であるが、かつては別個の独立した単細胞生物であったものが、人間の細胞の中に入り込み共生したものだといわれている。
ミトコンドリアは大量のエネルギーを生産することでき、そのおかげで人間の祖先は水から這い上がり陸上生物として生きるようになった。もしミトコンドリアがなければ、人間は今も暗い海の底でじっとしている単細胞生物だったかもしれない。人間の遠い祖先はミトコンドリアを体内に棲まわせてやる代わりに、エネルギーをもらうという共生関係を築いた。
この他にも、人間の体の中には無数の細菌が共生しており(例えば腸内細菌)、そのいずれが欠けても人は健康でいられない。このように、人は多くの目に見えない生き物と「共生」して生きている。
今数多くの研究者たちがウイルスを退治するためのワクチンや治療薬の開発に当たっている。でもそのほとんどは、ウイルスの存在を否定し死滅させるためのものである。それで今回のコロナ問題が解決したとしても、将来別の病原体がまた人を襲うであろう。結局、病原体との戦いは未来永劫続くことになる。
ウイルスとの「共生」が可能かどうか、それは筆者のようなド素人には全く分からない。でも、ウイルスを取り込み、無害化する方法が見つかれば、それは感染症の恒久的解決に結びつく可能性がある。
これは遠い将来の夢物語であるかもしれないが、こんなことを言っていた奴がいたなという記憶を頭の片隅に留めてもらえれば幸いです。
新型コロナ発現の理由と最終形 ツジセイゴウ @tsujiseigou
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