エピローグ
第53話 エピローグ
すでに二日ほど学校に通い、退院してから最初の休日だった。
久しぶりに見る豆腐のような白く四角い家を見ながらインターフォンへと手を伸ばす。
間延びする呼び出し音を聞きながら、和泉は以前に訪れた時のことを思い出していた。
あの時、玄関から出てきたのは宇宙服を着た不審人物だった。
あの時は伊知子さんなりに事情があったにせよ、あの姿には本当に驚いたし、あの光景はいまだに忘れられそうにもない。
そんなことを考えていたものだから、改めて和泉は驚いた。
開いた玄関から顔を覗かせたのが、宇宙服を着た人物だったからだ。
……中身は、どっちだろう?
宇宙服野郎は以前と同じく、顔の部分が射光板のように黒光りしていて、中身が誰なのか分からない。
「和泉さん、こんにちは」
控えめに声をかけられ、その話し方から
「伊知子さん? その、なんでまた宇宙服を着てるんですか?」
「お母さんったら、和泉君に合わせる顔がないんだって」
答えたのは、宇宙服野郎の背後にいた切通だった。
切通が大袈裟に呆れて見せるので、和泉は少しだけ笑う。
やっぱり、この親にしてこの子ありって奴なのかも知れない。
「その、こんなところではアレですから、上がってください」
宇宙服を着た伊知子さんに促され、和泉は鷲崎さんの家へとお邪魔することにした。
玄関には狛犬のように二対のエイリアンのフィギュアが客を威嚇するように口を開いていたし、廊下には見覚えのある宇宙に関係する映画作品のポスターやらタペストリーやらが並んでおり、あっちの傘立てに刺さっているのはライトセーバーだ。
和泉が入院している間に、取り置きしてもらっていた鷲崎さんのグッズを、伊知子さんが熊店長から買い戻したのだと切通から聞いていた。
和泉が入院している間に、なぜか伊知子さんは宇宙人に対して寛大になったらしい。
学校で
リビングに通されると、さらに数多くのコレクションに出迎えられた。
本棚には無数の宇宙関係のビデオテープやらDVDやらのパッケージやSF作品の書籍が並んでいて、それは和泉の観たことのある作品から、まるで聞いたこともない作品まで勢ぞろいだ。ソファには和泉の持ち込んだ丸いピンク色のぬいぐるみがあり、和泉の腹に刺さっていたナイフも、この部屋のどこかにあるかも知れない。腹の傷はまだ痛むが、それは事前に担当医から聞いていたから不安はなかった。
ソファの前に置かれたテレビが点いていて、和泉は目を見開く。
その画面には『マーズ・レイド』のタイトルが表示されていたからだ。
「今日は『マーズ・レイド』を、三人で見ようと思いまして」
「……お金も用意してないのに、良いんですか?」
和泉の問いに、伊知子さんは笑う。
「それよりも大切なものを、すでに私は頂きましたから」
伊知子さんの答えは理解しづらいけれど、その言葉は甘えてもいいものだと和泉は思った。
テレビの前に座ると、伊知子さんが〝宇宙人の生き血〟をグラスに注いで持ってきてくれて、切通がカーテンを閉め、部屋の電気を消した。
三人でテレビの前に座る。
伊知子さんがヘルメットを外していて、切通がリモコンで映画を再生した。
観たことのない会社のロゴが現れた後、暗転した画面に現れたのは、どこかの独房だった。
鎖に繋がれた男が、施設の職員に口を開く。
「俺が人間だったとしたら、これは誘拐事件だ! 仮に俺が宇宙人だとしても、人類は宇宙人に敵対したことになる! もしそうなれば、それは宇宙戦争規模の大問題に発展するぞ!?」
それを聞いて、不意に思い出した。
〝地球人に紛れていた時に、宇宙人だと疑われて困ったことがある〟
そこから繋がるこの話を、和泉は五年前のあの日、宇宙人から聞いていた。
そうか。
だからこそ、切通に視聴覚室で切通に刺されそうになった時、この台詞が和泉の口から出てきたのだろう。そして、その言葉を口にした和泉に、切通はあれほど驚いたらしい。
「最悪のケースだと、人類は野蛮な種族だと認定されて一つ上の存在の仲間入りはできなくなる! そうだろ!?」
……さて、この謎の男は、施設の職員が疑うように、本当に宇宙人なんだろうか? それとも、それはただの勘違いで、他に宇宙人が出てくる作品なのだろうか? そもそもこの物語のジャンルは『エイリアン』のようなSFパニックモノか、はたまた『ET』のような心の温まる物語のどちらなのだろう?
和泉は〝宇宙人の生き血〟を飲みながら、この後の展開について考え始めた。
おわり
宇宙人を好きな女子高生が存在する確率は、宇宙人が地球に飛来する確率とどちらが上か? 星浦 翼 @Hosiura
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