第15話(3-3) OKもう一度だ。
可愛らしい女の子の、一時の気の迷いということはよくあるものだ。
そういうときは、頭を冷やしてやるに限る。
俺はそこらを一周して、女の子を送り出すことにした。我ながらいいことをした。
さて、次はどこに行こうか。
静かな月夜の海岸、サイドカーに乗せてやって一緒に走る。頭は冷えてくれるだろうか。
瞬間視線をやれば、真っ直ぐの、疑いない瞳が俺を見つめている。
過去の同型機のデータが俺の中にも生きている。生身だった頃からのそれが、ずっと。
いくつものそんな瞳が、俺を見つめていた。
「懐かしい感じだね」
「何がですか!」
俺は昔話をしようとした。昔、昔、大昔……。
「まあ、色々あったのさ」
俺の記憶は薄れない。人間と違うんだから当然だ。もう、とっくに死んでしまった、いくつもいくつもの娘たちが、俺を呼んでいるのを感じる。
だから、話を誤魔化した。
簡単に口にできるような話じゃなかった。
女の子を校門前で下ろし、俺はサイドカーに背を預けて目を瞑った。
沢山の俺が、俺に声を掛けている。
――この娘を守るのは、俺でいいのか。
――悪魔と言われようと戦うだけだ。
――生身かそうでないかなんて、俺には関係ない。
――俺の事はパパと呼べ。
――今すぐ宇宙へ、戻るんだ。戻るんだ、なんとしても。
サイドカーの影から沢山の腕が伸びてきて、俺を引っ張り始めた。
「ああ、分かっているさ」
俺は呟いて、昔いた娘が教えてくれた魔法術式を書き上げた。手の中にブラスターが出現する。
直後に血を吐いたことを思い出す。腹に穴を開けられ、父と嘘をついていた娘に泣かれたことを思い出した。
――君は死なないよ。君は永遠に、娘を守るんだ……
あれは、呪いだったのか、なんなのか。
いや、どうでもいいか。
俺はサイドカーを走らせた。頭の冷えた女の子の幸せを心から願った。
俺に本当に心があるのかは自信はなかったが、それでも。
OKもう一度だ。
量産されたおっさん。あるいはカスタムお父さん 芝村裕吏 @sivamura
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