※書籍版を読み、こちらにも目を通した上での感想になります。
端的に言って、読みやすくて読み応えのある文章だった。
ファンタジーとしての世界観の説明はくどくなく、それでいて馴染み深い雰囲気は、大航海時代を思わせる歴史小説さながらで。
かと思いきや、無骨な主人公と軽妙自在な羽妖精の掛け合いはしっかりと‟ラノベ”をしている。
細かな心理描写はあまり多くないが、言葉の端々からにじみ出る好感度は、読み進めていくうちにみるみる高まっていくのがまた面白い。
料理は誇張せず、どちらかと言えばまるでレシピ本のような実用的な表現にとどまっているが、時代も時代なので逆にリアルで私は好きだった。
まとめると、脂っこくない肉厚なステーキのような小説。おすすめです。
カクヨムは割と骨と筋だけ整えて細かいところを埋めていない小説が多いが、本作はどこをみても「浅い」とか「薄い」と思わせるようなところがない。おかげで途中で冷めたり、飽きたりすることがなく、読んでいて耽溺できる。
さらにいうと、骨子である世界観などの設定も上質で、それでいて肉付けもしっかりとしてあるのが本作の強みだと思う。それら文章の均一な深みは、悪し様に捉えると山谷に欠け平坦とも考えれるが、しかしことごとく良いものは器用貧乏ではなく万能と呼ぶわけで、けして欠点とは捉えられない。
総じて良い、つまり全体を通してみると非常に良い作品だと思う。応援している。