第101話




「ふあぁ……ああ、朝か…」


恵みをもたらした後、疲れたように昨日の夕方から眠りにつき、そのまま朝まで眠っていたことが『揺り籠』によって形作られた家窓から差し込む暖かな光によって知ることになった。


そしてふと周りを見つめて、体の感覚が伝播し活性化していくのを感じていると、無機質なソファーの感覚ではなく、もっと暖かな生命の暖かみが触覚から情報として届いてくる。そうして上を向くとそこには、リアのにんまりとした穏やかな笑みがあった。


「リア………なんで…一日中…?」


「ううん。一日中じゃない。秋が寝たのを見て、この部屋探索したらいろいろあったから勝手に使って、二階のベッドで寝て、起きて、また秋の寝顔見てた。膝枕しながら」


『揺り籠』の中には一階と二階があり、二階には大きなベッドが備わっていたことからリアはそこで眠りにつき、また起きて秋の寝顔の観察に勤しんでいたというわけだ。


「今……どれぐらいだ…?」


「ん。ちょうど朝を少し過ぎたぐらい。おはよう秋」


「ああ、おはようリア」


現在の時刻は8時から9時ごろといった所。異世界では寝坊もいい所だが、日本ではこれぐらいに起きてもバチは当たらない。時間感覚でさえも少し故郷に帰ったと秋はしみじみしていた。


こうして秋は起きると、リアと共にテーブルへと移り朝食をとる。この揺り籠にはキッチンも用意されており、蛇口を捻れば水が出てコンロのつまみを回せば火が付いたので、秋が朝食を振る舞う事になった。秋の『帝王の宝異箱』から食材を取り出し、取り出したパンに合うような一品を作ってテーブルに並べた。


秋とリアも久しぶりのまともな朝食といえばそうだが、ここまでの旅路の間は野宿しかしてこなったため少しの調理でも十分においしく食べることができた。


そしてお互いに準備を済ませて家を出る。時刻はおおよそ10時半前後。いつものリアと秋を考えればゆっくりとした支度だったが、こうして『揺り籠』から出た二人は『戒界の軛』を操作して岩を下に降ろして歩みを進めた。その後ろには『揺り籠』としての役割を終えた家が静かに消えようとしていた。







こうして二人はもう一度竜人族の集落へと足を運んだ。秋はノワールに頼んでおいた族長ガルビートの交渉の成果を心配していた。いくらノワールの言葉とは言え昨日今日での話に決着がしっかりとついているかどうかや、秋達の目的である『星王龍』との邂逅が成されなければこんな辺境にいる意味はないにも等しい。だからこそ今までの努力が無駄にならないかどうかを危ぶんでいたのだ。


こうして竜人族の集落へとたどり着くと、そこには広場に集まる多くの人影と、秋達を真っ先に見つけて駆け寄るノワールの姿だった。


「—————秋!!!」


「ああ、ノワールか———で、どうだった?結果の方は」


「ああ、うん………結果に関しては、一応…成功。なのかしら?」


「ん?どういう事だ?」


「ああ、うん……順を追って説明するわね———秋達が帰った後、私と父さんで話は進めたのだけれど、案の定断固反対。私の話を聞いても意見は曲げずに、話は夜までかかって結局昨日はそこで話を終えたのよ」


「ほう」


「だけれど今日の朝になったら一転して意見が変わって、『全力で支援する』って言いだしたの。それだけならまだよかったのだけれど…」


「どうしたんだ?」


「それが今の現状……あろうことか邪龍討伐の話をここにいる皆にするつもりらしいのよ」


ノワールが見ている父の性格とは想像もつかないようなことを行っている父に対して、秋だけではなくノワールも疑いの目を隠せずにいた」


「私から見てもやっぱりおかしいのだけれど……おそらくお父様なりに何か考えがあると思うのよ…だからここは従ってくれないかしら?一応『全面的に協力する』という言質は取れたから、秋の邪龍討伐は認められたわ。少なくとも、ね…」


「ああ、ありがとう。帰ってきたばっかりだったのに疲れる役回りを任せてしまった」


「ううん。いいのよこれぐらいは、私にできるならなんだってやるわ」


そうしてノワールの成功報告がガルビートの不審な行動とセットでやってきた秋。竜人族の集落にまた動きがあったのはノワールとの会話を終えてしばらくしてからのことだった。







「皆のもの!聞けぇ!」


広場に簡易的に建設された台の上に族長であるガルビートが乗ることで始まった。一人の大声に集められた竜人は何が始まるのかと、膨らんで破裂寸前の空気感を族長に向けた。


「今回皆に集まってもらったのは他でもない……我々は今危機に陥っておる。邪龍によって我々の住処を追われ、数々の勇敢な戦士が私たちを守るために命を落としてしまった…。そして今もその脅威が去ることはなく、我々の住処の上に居座っておる。これは理解していると皆も思う」


こうして始まったガルビートの一言目が、邪龍についての言及だったことに竜人は驚きを隠せなかった。邪龍の話題はタブーという空気の中で、それを話すことはないと皆が思っていたためだ。


「だが、今回。我々はもう一度邪龍討伐を行う!……いや、行ってもらう!といった方が正しいか———」


その言葉に、竜人たちは驚きを隠しきれずに声に出たり反応に現れたりしてた。それらが伝播し会場の空気はよくも悪くも不穏なものへと変わっていく。


ひそひそ声から動揺が漏れる。なんて言ったかを理解できずに隣へ聞くものや、動揺で目が点になっている者もいた。


だがこれは仕方ないことだ。“もう一度邪龍討伐を行う”という一言は、トラウマを思い起こす愚かな行為だと族長以外の誰もが考えていることなのだから。


「皆の動揺は分かる。だが、話を聞いてほしい—————」


そうガルビートが話すと、スッというわけにはいかないが、それでもだんだんと落ち着きを取り戻した竜人たちが静寂を取り戻した。これはやはり族長の成せる信頼の一つなのだろう。


「皆の動揺はよくわかる。だが私は確信している。彼らなら必ず邪龍を討伐できると!その者は前に帰ってきたノワールが連れてきてくれた人族の二人組だ!彼らは昨日私たちのために力を使い水の足りない我々に雨を起こしてくれ、更に水問題まで解決してくれた!」


こうしてガルビートが言い放つと、持ってきたのは昨日に秋がガルビートに与えた魔剣『水碧剣:シュガルツァー』だった。そしてそこから溢れる水にいい意味で動揺が広がった。


「この魔剣を5本私が預かっている!中々雨の降らないこの台地では何よりの助けになるだろう!」


一気に物事を知らされて竜人は動揺と混乱で覆われていた。だがガルビートは止まらなかった。


「ここで言いたいのは、彼らはこれほどの魔剣を我々に渡し、天候さえ操れるほどの実力を持つ者だという事だ!そして、私がこの話をしたのはほかでもない—————神託だっ!!!」


“神託”という言葉にまたしても動揺が襲う。この集落にとって神託とはかの龍の事を指すのだから。


「昨日の夜。私の元に神託が下りた!“かの者に邪龍を任せよ”と!だからこそ、私はこの神託を共有しようと皆を集めこのことを知らせた!………私からは以上だ。集まってくれて感謝する」


こう言い残すとガルビートは壇上を降りて去っていった。ノワールと秋はそれらを追うべく族長のテントへと足を向けたのだった。



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~神様から”次元を超えて地球に戻れる魔法”を貰った俺~ 少年は平穏を求めて最強に至る。 照屋 @teruya1001

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