人類がほぼ絶滅したその世界で生きていく人々
朝凪 凜
第1話
高い高い建造物たちがあった。
ツタで覆われ、窓ガラスは殆どが割れてしまっている。
中には崖の土砂に半分くらい埋もれてしまっている建物もある。
「ここにも誰も居なさそうだね~」
声を発したのは髪の長い年端もいかない若い少女だった。
「人がいるだけでも珍しいんだから、しょうがないよ」
こちらも同じ年頃の少女であったが、髪を短くまとめて活発な印象を受ける。
「超高層ビルがこう建ち並ぶと、いつ崩れてきてもおかしくないからなるべく離れて歩いてね」
髪の長い少女が注意を促す。
人の手が既に入っていないビル群は老朽化もあり、一部は倒壊もしていた。
二人はかつての幹線道路だろう、広い道の真ん中を歩いている。
「倒れてきたら何百メートル先にいてもどうしようも無いよ」
短髪の少女は客観的というのかある種悲観的にそう返答する。
「倒れてきたらどうしようもないけど、ガラスが落ちてきたり、他にも何かものが落ちてきたりしたら危ないのよ」
頸を痛めそうな高い建物を見上げては歩き、足元も注意しながら歩く。それは非常に効率が悪いけれど、そうせざるを得なかった。
「せめてこの道が平らだったらすぐに通り抜けるのにな」
道路はアスファルトがめくれ、街路樹だったものの木の根が迫り出している。まだ土の上を歩いていた方が楽だと思えるくらい、固いアスファルトは歩行を阻害する。
「こんなところによってどうするつもりだったんだ? 何かアテでもあったとか?」
「まあ、人がいればいいかなとは思ったけど、そうじゃなくてもなんかちょっと気になることがあって……」
ふーん、と自分から訊いたのに大して話を聞かず、見上げる首を両手で組んだ手で支えて歩く。
「前にね、夢を見たんだ。いつか見た夢。廃墟となったビルでロボットと人間が旅をしているのを見つけて、そして……」
「そして……?」
段々と声のトーンが落ちていき、途切れたところで単発の少女が先を促すと、ぽつりと呟いた。
「――ロボットが私たちを殺す夢」
その言葉に息を呑む。
「そ、そんな、なんでじゃあこっちに来たんだよ! 夢だからそんなことは起こりませんってか!?」
不安をそのまま表に出し、周囲を警戒しだす。
「夢、だけどね。まさかそんなことはないと思って来ているわ。だって人と一緒にいるロボットっていうのがもうあり得ない。人どころか他の動物もいないじゃない? だから平気よ」
震える声を押し隠して、自分に言い聞かせるように呟いた。
それから、ゆっくりと周囲を警戒しながら、足元も掬われないように気をつけながら、頭上からも落下物に目を凝らしながら歩みを進める。
進んでいくと、幾分綺麗な建物が建っていた。ビル自体も4階建てでそれほど不安定でも無い。
緊張しながらずっと歩いてきた二人が休憩するのには十分だった。
「ちょっとここで休もうよ。道は悪いし、首痛いし疲れた」
「そうね。ちょっと中で休憩しましょ」
二人はビルの中に入っていく、と。
「あれ、もしかして電気通ってる?」
長髪の少女が気づいたのは、ドアの鍵が電子ロックになっており、それが生きていたからだった。
「こんなんまだあったんだな」
短髪の少女が手のひらをかざすと、ドアが開いた。二人はさも当然のように中に入っていった。
「旧世代の鍵だから良かったけど、そうじゃなかったらセキュリティ呼ばれてたかもしれないんだから気をつけてよね」
長髪の少女が怒った口調で文句を言うものの、どこ吹く風で先に進んでいく。
* * *
ビルの中の2階に上がり、フロアを調べていると。
「あれ……? もしかして……」
二人が足を止め、あるフロアの中の様子を調べる。
その広いフロアの奥に二人の人が座って寝ているようだった。
「ほら! 他に人が居たよ!」
「う、うん。そうだね……。一応気をつけてよ。向こうも友好的とは限らないんだからね」
様子を窺うも、手元には武器らしきものも無かった。まずはそれに安心し、寝ているところを起こすところに少し躊躇したものの、短髪の少女がまず声を掛けた。
「あのー。もしかして寝てます? おーい」
その声に反応して、二人の内の女性の方がこちらに目を向けた。
「…………」
返事は無く、好意的とは言えるか怪しい眼でこちらを見ていた。
その女性が隣の男の子を軽く揺すり起こす。
「ん……あっ」
眠い目をこすってすぐに警戒された。
「大丈夫! うちは悪い人じゃない。ちょっと休憩しようと中に入ったらたまたま人が居たから声を掛けただけなの。大丈夫!」
まだ20メートル以上は離れているフロアの端と端で会話をするのは大変なので、少女が両手を挙げながら少しずつ近づいて行く。
男の子が女性に何やら耳打ちをしているが、少女からは全く聞こえない。
すると女性から警戒の眼が消え、軽く会釈をしてきた。
大丈夫だと言ってくれたのだろう。長髪の少女もようやく近づくことが出来た。
すぐ近くまで話が出来るようになって、女性が立ち上がり――。
「失礼します」
そう言うと、女性と男の子はフロアから出て行ってしまった。
「え?」
話をしようとしていた二人は拍子抜けし、
「僕らはもう出て行くところだったから、二人で自由に使っていていいよ」
そう言われ、男の子たちがいたところで休憩をしようと腰を下ろしたら――
『ピッ』
と音がして、二人が気づくよりも先に、ビルが爆発した。
「念には念をしとかないと」
そう呟いた男の子はビルの窓から飛び降りており、女性が抱えて着地した。
女性の方はアンドロイドだった。
人類がほぼ絶滅したその世界で生きていく人々 朝凪 凜 @rin7n
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます