歯医者を巡って、「痛み」を伝える物語。

 主人公は小学生の男児だ。主人公は歯医者が嫌いで、いつも逃げ出していた。そんな主人公に、母親は今日こそ歯医者に行くように迫る。釘を刺された主人公だったが、宿題の白地図をすっかり忘れていたことに気付く。
 担任の先生から居残りで白地図の宿題をするように言われ、主人公は夕方までに何とか宿題を終わらせる。しかしそこで、見たこともない男性に遭遇する。男性は新しく入った用務員だった。用務員のことを気にしながらも帰宅した主人公は、母親から歯医者に行かなかったことを叱責される。
 カレーという大好物につられる形で、歯医者に行き、主人公は歯ぐきの注射がなかったことに安堵し、帰宅する。すると父親が怪我をしていた。父はマラソン大会に出るため、母親には内緒にするように言う。そんな時主人公の目に入ったのは、漫画に挟まれた原稿用紙だった。主人公はこれをきっかけに、恵まれない子供たちに想いを馳せるのだった。
 そして、担任の先生が主人公宅を訪れ、衝撃的な事実を告げる。
 あの用務員の正体は……。

 歯医者で経験する痛みから、父親の怪我の痛み、そして担任の先生の心の痛みまでを、自然な流れで描き出す。そして、恵まれない子供たちという、もう一つの痛みを考えさせられる一作だった。
 最後のどんでん返しも、良かった。

 是非、御一読下さい。

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