物語の構成について④ 〜プロット後期に考えること・あらすじ組立〜

 続いては、プロット作成初期で決めた作品のテーマや、中期で挙げたアイデア要素を、実際に物語として組み立てていきます。つまりは「あらすじ」を作成することになります。それも、文庫本の裏表紙などに記載される、読者に向けたキャッチーな「あらすじ」ではありません。物語の始まりから結末までを網羅して簡潔にまとめた、作者のための「あらすじ」を作成します。

 正直に言うと、個人的に苦手な作業です。

 ですが公募などの際には、小説本文と一緒に提出を求められることも多く、避けては通れない道だと思われます。最近のウェブ小説サイト経由の公募では省かれているみたいですが。


 ここで使うと便利なのが「起承転結」や「序破急」という考え方ですね。多くの方が論じている物事の考え方ですので、ここで深く掘り下げることは遠慮しておこうかと思います。また、必ずしも物語をそれらの形にする必要はありません。ですが、特段にこだわりがなければメソッドとして利用するのがよろしいでしょう。

 前回や前々回であげたテーマやアイデアを実際に使って「あらすじ」例を提示できれば良いのですが、面倒くさ──もとい手間がかかりすぎるので(誤魔化しきれてないな)、今回は簡易的に、みんな知ってる『桃太郎』を「起承転結」に当て嵌めていこうと思います。

 下記のようになりました。


起……桃太郎がいました。彼は乱暴者で、鬼退治に出かけます。

承……旅の途中でなんやかんや、ありまして。

転……鬼を平和的に説得しました。

結……そして可愛いお嫁さんと結婚しました。


 とまあ、こんな感じでしょうか。

 仰りたいことはわかります。こんなの『桃太郎』ではありませんね。

 しかし極端に表現しておりますが、ただ思いついたアイデア要素を組み立ててみると、実際こんなもんになりがちです。物語として破綻しているものが出来がります。それを修正して補完していく作業こそが、私のプロット作成の後期工程となります。


 ここで、この『桃太郎』を俯瞰してみます。

 このときに注意する見方として


・面白い話かどうかを、意識すること。

・一部のエピソードだけではなく、全体的な視野を持つこと。

・物語の整合性について考えて、矛盾がないか疑うこと。

・あやふやな想像しかできていない箇所があれば、詳細な物語を用意すること。


 それを踏まえた上で、ざっと考えられる『桃太郎』の構成的な問題点しましては──


・起において、物語の背景が見えない。何より『桃から生まれた』という印象的なエピソードが抜けており、読者の興味を惹くツカミが無い。

・承の部分は何も決まっていない。

・転でのエピソードが、起で語られている桃太郎の性質と合致しておらず、整合性がない。

・結。いや、どっから出てきた。


 こうして出てきた問題点たちを一つずつ解決していきます。

 起において物語の背景を加筆し、読者への掴みを用意します。承のエピソードを構築します。転で前後の物語と釣り合いを取るためにエピソードを改変します。結の唐突な場面転換を緩和するために前ふりを用意します。

 するとこのようなプロットが出来上がりました。


起……昔々、あるところで一人の赤ん坊が『桃』から生まれ落ちました。そのため彼は『桃太郎』と名付けられ、すくすくと成長します。しかし、その出生の特異さに周囲から疎まれて反発し、乱暴者の若者として成長しました。ある日、遠い地に『鬼』がいると知り、鬼退治に出かけます。

 

承……旅の途中、一人の女性と知り合いました。彼女は見目麗しく、桃太郎は心奪われましたが、相手にされません。彼女を振り向かせようと、交流を深める間に、桃太郎は人の優しさに触れます。


転…… 女性も桃太郎の変化を知り、心を開きかけた折、鬼が現れて女性をさらっていきました。桃太郎もこれを追いかけて、ついに鬼ヶ島にて鬼と対峙、これに打ち勝ちます。


結……鬼の討伐を果たそうとする桃太郎でありましたが、女性との交流を思い出し、これを思いとどまります。鬼も桃太郎の慈悲に大層感謝して、改心します。ついには女性を助け出し、二人は結婚して末長く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。



 こんな感じです。

 当初よりは、形にはなったプロットが出来上がったように思えます。しかし、まだまだ大枠です。さらにさらに物語を突き詰めていく必要があります。

 再度、物語を俯瞰してみましょう。「『女性との交流』とは言うが、具体的にはどんなエピソードだ?」など「鬼が退治されかけて改心するなんて無理がありすぎないか?」など、少しでも自らで疑問に思う箇所は考え込んでいきます。物語を構成する要素が足りないと思うのでれば、中期工程でのアイデア出しに立ち戻ります。こうした「アイデア出し→あらすじ組み立て→俯瞰して検査→アイデア出し」を繰り返して、少しづつ物語の体裁を整えていきます。

 このとき同時に、キャラクター設定・用語集なども作成するのもいいかもしれません。キャラの生い立ちや物語特有の用語など、全てをあらすじに記載しているとゴチャゴチャして俯瞰しにくくなります。

 ある程度、エピソードやキャラクターが固まってきのであれば──


鬼……風貌や種族が人間とは違い、排斥されてきた者達。しかし意思疎通は可能で理性も持ち、心は人と変わらない。人に疎まれ乱暴者になった桃太郎に対するメタファー要素あり。

 

 といったように別枠で設定集を自作していれば、あらすじもだいぶスッキリしますし、そこからストーリーの新たなきっかけが生まれることもあります。そっちの方が面白くて、設定ばかり凝り、あらすじがなおざりになるのも、ありがちではあります。


 次回では長くなりました「物語の構成について」のまとめを記載しようかと思います。

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「創作」の話をしようじゃないか 久保良文 @k-yoshihumi

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