第50話
「ホント、どうするんだ……アレ……」
そうぼやいて、俺はやる気をなくし椅子にだらりと背を掛けた。
「おにいさん。最初の意気込みはどうしたの?」
ソレを左腕に抱き着いて共に腰掛けるミレアスフィールがあざ笑った。
「いや、流石にあれは聞いてない。なんだよアレ、いくら虚像だからって全部の攻撃を防がれるなんてどうしようもないだろ?」
「確かに。私の実力ではまだしも、サラさんやご主人様の攻撃が通らないというのはどうしようもないかと思います」
「だろ?」
賛同するシャルロットに、だろ?と返し俺は背もたれに倒れたまま頭も預け天井を見上げる。
なんというか、俺はもう予想以上の光の女神の強さにやる気を喪失していた。
脱力すると耳を傾けずとも、雑音というなの環境音が耳に入る。
ザワザワとギルドの雑音が億劫になると、それですら心地がいい。
「あ~」
俺たちは大樹のダンジョンから撤退してギルドへと一度戻ってきていた。
まあ、正確には大樹のダンジョンではないのだが……。
と言うのも。
あのティアラが封じていた大樹のダンジョン。あれ自体は三日足らずでおおよその探索は進み内蔵は把握できたのだ。
魔物を倒して通路を進み、それで出てきたのがあの空間に繋がる扉だった。
最初、ダンジョンの最奥でもあったためボスの部屋とでも思った訳だが、実際扉を開けて見たらそうではなかった。
開けたら、木の根が絡み合ってできたダンジョンとは異なる、別のダンジョン。
ミレアスフィールが居た、女神の空間のような純白の神殿だ。
「まさか、ダンジョンが二重構造だとはなぁ」
そう、二重構造だったのだ。
見つけた時には最初もちろん驚いた。そんなこと何も訊いていなかったしティアラの力の中にもその情報はなかった。
多分、ティアラ自体もダンジョンには入ったことがなかったんだろう。だから分からなかったし。
それに、シャルロットですら二十構造のダンジョンは初めて見たと言っていた。
おそらくは、イレギュラー中のイレギュラーなのだろう。
だからこそ、警戒しない訳にはいかなかった。
そもそも、女神の領域の神殿を模様したダンジョンなんて見るからに、トラップやら強そうな魔物がうようよ居そうであったわけだし。
それで出てきたのが、開幕から闇落ちした光の女神マリアご本人様じゃ笑い話にもなりやしない。
まあ、結果としてだからこそ、警戒していた意味はあった。
俺たちは光の女神と戦ったが、実際には二重目のダンジョンには足を踏み入れていない。
正確には、虚像として足を踏み入れたのだが、そこはミレアスフィール様様なのだ。
まず、最初に警戒した俺たちはどうにか中を入らずに探索することを考えた。
なにせ、明らかに怪しい空間なんだ。そうバカみたいに入っていく訳には行かなかった。
そこで、ミレアスフィールが一つ提案をしてきた。自身の魔法で鏡の虚像を作り、それらに行かせると。もちろん、虚像がした動作はオリジナルの俺たちとほぼ変わらないし、中で何が起きたのか分るということだった。
まあ、つまりは俺たちの偽物を作ってそいつらに先行してもらった訳だ。
結果的に、ソレでダンジョンに踏み入れた訳だが、入って早々に現れたのは光の女神マリアだった。
入っていきなり最初からラスボスとか、聞いてないぞとは思ったが、ミレアスフィールの提案が幸いしたのかこうして俺たちは虚像が敗北しても無傷だった。
とはいえ、いくら虚像といえども、元女神のミレアスフィールの創り出す偽物は本物のおよそ8割ほどの力を出せることらしい。だから、事実上本物よりは劣るが実際、その魔力も思考回路も本物とさほど変わらないらしい。
ゆえに、偽物が消滅した際に記憶は俺たちに定着して、俺は億劫になった。
あれは無理だろ、と。
最初からあきらめてどうする。という話でもあるが、虚像は本物の8割の強さ。ハッキリ言って本物と対して変わらない。
勝ち目が見えなかったのだ。あの時点で。
それに、ミレアスフィールもあの魔法で魔力の大部分を使ってしまい、存在を維持するために魔力の補給が必要になっていた訳でもあった。
だから、完全に手が詰まった俺たちは一度攻略法を考え直すべくこうして、ギルドへ戻って来た訳だった。
「とにかく、マリア様をどうにかしなくてはいけませんね。ご主人様、何か対抗できる魔剣は形成できないのですか?」
「無理。光を丸ごとその場全体にまき散らす奴に何が聞くっていうんだ?それに、一度ぶつかったから分かる。あの見えない壁はただの魔法の壁じゃない。なんていうか、こう、実体あったんだ。物理的な……」
それが何なのかは分からない。けど、確かにそうだ。
雷など、魔法では破壊できないような。物理的な固い何かに阻まれた。そんな気がする……。
そもそも、時速数百キロの雷を弾く壁とか壊す剣を形成したとして、それからどうする。
多分あれ。多分無尽蔵に出して防ぐことができる。
ミレアスフィールが上下から攻撃してサラが正面から撃ったにも関わらず、その全てをことごとく防いでいた。
複数同時展開に修復どころか、替えの壁を張ってくるに違いない。
そもそも、あの壁を破壊するほどの魔剣を形成したとして、俺の残存魔力じゃあそれだけでほぼ全て持ってかれてしまう。そこから光の女神自他に攻撃できるかどうか分からない。
他にもなにかやって来そうな雰囲気もあったしな……。
「じかんは?」
「ウフフ……。無理よ」
サラへミレアスフィールが薄く笑い捨てた。
「なんで?」
それに、サラがミレアスフィールを睨む。
「相手はいくらダンジョンに浸食されたと言っても光の女神。神格以下の魔力でどうこうしてる時間停止なんて通じやしないわ。あれはそういう概念を超越してる。それに、ダンジョンに浸食されて全盛期の頃よりも力をつけてるから、ミレア程度の力じゃどうしようもないわ。悔しい話だけどね」
「ふ~ん」
何故だか知らないが二人がにらみ合っている。
「そうですか……。それより、あなた、いつまでご主人様に抱き着いているつもりなのですか?」
「ウフフ……。魔力補給よ。ミレアがぁ消えちゃうとぉ、困るでしょう?」
「困りません!!大体、魔力補給ならもう十分でしょっ、ダンジョンからの帰り道からここまでずっと丸一日以上だきついてるじゃなですか!?」
「うん」
シャルロットとサラの二人がミレアスフィールを睨む。
あれ、なんかこの光景どっかで見たことあるぞ。
やばい、デジャブだ……。
「ミレア!!」
「ん!!」
「ウフフ……」
はあ。
仕方なく俺は椅子に持たれ崩れた体を戻し。
「とにかく。俺たちに足りないのは火力だ。幸いパーティーのバランスは取れてる」
幸いな。幸い。
前衛に俺、シャルロット。後衛にサラ。補助に敵の攻撃を魔法で跳ね返すことができるミレアスフィール。
バランスは取れている。
連携もそれなりだ。
ただ――この痴話げんか見たいなのがどうにかなればだが……。
まあ、流石に三人とも戦闘ではケンカなんてせずに連携を取れていたが……。
大樹のダンジョンでそれなりの戦闘をして、動き方は大体掴めてきた。
そこで、今回の光の女神だ。
明らかに火力が足りていない。
俺は例外として、シャルロットは完全に機動力重視。サラは特殊な弾で戦車ぐらいの火力を出すことは可能の様だが、ソレは一回の戦闘でライフルが衝撃に持たなく乱発できない。
ミレアスフィールに至ってはほぼ皆無。
大きなスキを作ってくれるような大火力がかけている。
とはいえ、相手は女神。それに対抗できるような火力なんてあるのか?
「だから、あの見えない壁を押し抜ける程の火力が欲しい」
シャルロットがソレを訊き、口元に手を当て考えるそぶりを見せる。
「女神様に相当する火力ですか……」
「心当たりが?」
「ない事もないですが……」
その時、机で騒ぐ俺たちに近づく影があった。
ソードクリエイト 魔剣と聖剣であらゆるダンジョンを完全攻略しつくす!! テケ @teke523452
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