3


 二人でいられれば、それでよかった。

 あの子さえいてくれれば、あの子のためと言っていられればこそ、こんな生も耐えていられたのに。



 母さん以来初めて嗅ぐ自分以外の濃密な血臭に、口の中が泡立って噎せ返る。涙と血が混じったものが舌先を転がっていく。

 これまでずっと食われる側だった私が食べている。瓜二つの双子の妹の、その肉を。私たち二人の間でだけ怪物だったものの肉を、食べていた。自分がされていたのを真似て、息苦しいのを無視して歯を立てる。まだ生温かい血液が、喉の奥に流れていった。

 私たちの呪いがここにある。循環したいのだとあの子は言った。あの子が母を飲み込んだように、次は私の番なのだと。すべては巡る。呪いもまた、長い月日をかけて巡っていくのだと。

 母は死んだ。あの子も死んでしまった。最後に、私だけが残った。

 こんなものをあの子は美味しいと言っていたのかと、吐き気ごと飲み下しながら考える。

 人間であろうと努力した。母の言ったように、人の中で生きていけるようにとこれから先を見つめてきた。

 すべてとは言わない。けれど、きっとどこかが間違っていた。

 姉妹の肉が美味しいだなんて、化け物以外の何物でもない。



「あなたたちは人じゃないの。だけど、人の中で生きられるようにしないとね」


 母が言っていた。私たちは人ではないのだと。だからこそ、人でなければならないのだと。

 ずっと、母は人を憎んでいないと思っていた。一度だって、恨み言を言わなかったと思っていた。


「化け物だったよ、私たちは」


 血塗れの唇で、白くなったあの子に口づけをする。紅を引いて、口元を拭った。


 母の隣にあの子を埋めた。自分がいつ死ぬかなんてわかりもしないけれど、それまでは何回だって会いに来る。

 そして、あの子が大好きだった私の肉を、そこに埋めるよ。いつか、そこに行けるようになるまでは。



 立ち上がって、自分のいる場所を思い描く。

 あの村は、どこにあっただろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Re:peat 伊島糸雨 @shiu_itoh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ