第12話 決闘②
「――さあ、第二ラウンド開始だ」
突如として現れた新手に向けて、朱眼の骸骨が剣を構える。
じりじりと間合いを図る。
次の瞬間、どちらからともなく駆け出す。
蹴り飛ばされた土が宙を舞った。
元々、距離はそう遠くない。
数秒とかからず互いの剣の間合いに入る。
蒼眼の骸骨に向かって、朱眼の骸骨が剣を振り下ろす。
それを
肋骨が何本か折れたが、痛覚を持たない骸骨にとってはなんら支障ないようだ。
お返しとばかりに朱眼が小盾を構え、敵目がけて突進する。
衝突の瞬間に小盾を叩きつけ、吹き飛ばす。
所謂シールドバッシュと呼ばれるものだ。
強い衝撃で体勢を崩した瞬間に朱眼が追い打ちをかけるが、それを蒼眼が剣で受け止め、弾く。
あらかじめ決まっているかのような、寸分狂わぬ攻防。
赤と蒼の光が、美しい軌跡を描く。
程なくして両者は刺突の構えになり、お互いの心臓部分にある水晶のようなものを狙って剣を突き刺す。
硬質な音が響いた直後、何かが砕ける音が二つ聞こえた。
要を失ったかのように、骸骨達は身体を維持できず、バラバラに崩れ去った。
「突っ立っている暇はないぞ!」
彼らの最期を見届けるよりも早く、クルゼル子爵が剣を構え突進してくる。
袈裟懸けの一撃を剣で受け止める。
衝撃を受けた手が思い出したかのように鋭い痛みを訴える。
なんとか反撃しようとするが、軽く躱され剣は空を切った。
隙を見逃さなかった彼は瞬時に距離を詰めてくる。
逆袈裟に振り抜かれた一撃が俺の手から剣を弾き飛ばした。
得物を失った俺の首に彼の剣が突きつけられる。
「これで儂の勝ちだ。儂は自分より弱い男に孫娘を任せるつもりはない。……だが」
先程までは怒りをあらわにしていた彼の表情は、宝物を見つけた少年のような笑みに変わっていた。
「お前はまだ強くなれる。強くなったお前になら、安心して孫娘を任せられる」
言葉とは裏腹に苦渋を強いられているような顔になったクルゼル子爵。
俺は別に、「娘さんを僕にください!」と言いに来たワケではないのだが……。
「どうだ、小僧。儂に剣術、ナディアに死霊術を教えてもらうというのは」
その提案は魅力的だ。断る理由もない。
「ああ、よろしく頼むよ、爺さん。ナディアさん、これからよろしくお願いします」
ナディアさんにしっかりと頭を下げる。
「軽っ! 儂の扱い軽ッ! どこでそんな差がついた!?」
「私自身、まだ熟練者と言える程じゃないけど……、きちんと教えてあげられるように頑張る……!」
「ふぁいとー!」と意気込むナディアさん。可愛い。
「な、なあ、儂空気なの……?」
正直、クルゼル子爵には、突然決闘を申し込まれたり、引導を渡されかけたりと、今のところ敬おうと思える要素が一つたりともない。
クルゼル子爵と呼ぶのは長くて面倒だし、爺さんでいいか。
そんな風に思ってしまったのだから仕方ない。
雑に扱える程に心の距離が縮まったとも言える……ハズだ。
激しく運動したせいで汗塗れになった俺を見て、セバスさんからの提案で、風呂を借りさせてもらうことになった。
勿論、家主である爺さんに許可を貰っている。
ちなみに、爺さんはひとつも汗をかいていなかった。
……やはり本気を出していなかったか。
途中の横薙ぎだけ段違いの威力だったのは、焦って手加減を誤ったからだろう。
手加減されていたことに悔しさを感じるが、怒りは感じなかった。
俺はまだ、本気で戦ってもらえる程実力を持ち合わせていない。
再戦の時までに技を磨き、爺さんに認めてもらうのだ。
全力で戦うに相応しい相手であると。
新たな決意を胸に、屋敷の方へ足を向けた時、神妙な顔をした爺さんに呼び止められた。
「……時に小僧。お前、痛みを感じるのが怖いか?」
なにを当たり前のことを言っているんだ?
脈絡なく投げかけられた質問に困惑する。
「誰だって痛いのは嫌だろ、普通」
「お前は儂の攻撃を大げさに避けていた。これは痛みから逃れようとしたからだ」
そんなに大きく避けていただろうか。自分では分からない。
「だが、途中の横に振るった一撃。あれは、牽制のつもりで放ったとはいえ、力加減を間違えていたからな。頭に当たれば最悪死んでいた」
そんなものを人の近くで放つなと言いたい。まあ、そこへ突っ込んだ俺が言えたことではないが。
「痛みに恐怖してる奴が、頭スレスレで避けてまで突っ込むか? いや、並大抵の人間ならやろうとは普通思わん。それを実行してみせるのは、実力に相当自信のある奴か、死ぬことを恐れてない奴だけだ」
「……俺が、死にたがりだと?」
「そうとは言ってない。……とりあえず話を最後まで聞け」
咳払いをして、こちらを見てくる。俺が聞く体勢になったのを見て、爺さんは話の続きをし始める。
「儂の推測だが、お前は、死に対してのハードルが低い」
どういう意味か聞きたいが、話の腰を折ることになるのでぐっとこらえる。
「先程言った通り、お前は痛みを伴う攻撃に対しては大きく避ける。だが、致命傷になる攻撃には意に介さずギリギリで躱す。おそらく小僧は、死を痛みからの解放だと無意識に考えている」
俺は、死を救いとして考えている……?
……分からない。自分が何を考えているのか。なぜ、そんな考えになったのか。
「そういうやつの共通点はな、死を身近に感じているってことだ。だから、死者を扱う死霊術師はそうなりやすいな。儂が教えてきた弟子の中にも、何人かいた」
それでお前の違和感に気づいたんだ、と彼は付け足す。
死霊術を使ったのは今日の決闘が初めてだし、地球での記憶で、死を身近に感じるようなことに思い当たる節はない。
「本当に大事なのは、ここからだ――」
彼が話した内容は、到底信じられるものではなかった。
だから、軽く流してしまった。
……後に自分がそのような事態に直面しようとは、考えもせずに。
クラス召喚で勇者になったけど、邪神の使徒になります 波島シノ @wildcats411
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