花火の夜

深見萩緒

花火の夜


ビル群の向かうにせいの高い波があつた

丸いお目々がふたつついており

わたくしを見下ろしてゐる

歩道橋でたくさんの人が折り重なつて

わあわあ騒いで泣いてゐる

お父さん、花火がきれいだつたねえ

(これはあくまでも記憶です)


警備員がピイーと笛を鳴らすと

群衆はネズミ花火のやうに散り

ビル群の中に消えてゆく

遠くに火薬の匂ひがしたので

あれらは本当にネズミ花火であつたろう

(火を着けたのは誰だつたのか)


あ 鳥居の上に火の輪郭が

お母さん、あの大きな燃えカスは、きつと落ちてくるよ

(落ちて来やしませんよ)

爆音はひつきりなしに

あゝさうか これは終幕フイナーレなのだ

瞼を閉ぢるとわたくしの薄い網膜の上にも

ちらちら瞬く花火があつた


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花火の夜 深見萩緒 @miscanthus_nogi

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