後編 📕✨夢を叶えるために
この投稿サイトでは毎年コンテストが行われる、もちろんラノベ系の作品が選ばれることが多いけれど毎年挑戦はしていた。
何とか読者選考には残るものの編集部からメールが届くことなんてまったくない。
そんなある日にゆかりから嬉しい報告があった。
生命保険会社が募集していた小さなコンテストで優秀賞に輝き、アンソロジーではあるけれど書籍化されるということだ。
自分でも不思議だけど羨ましいと思う感情は起こらなくてゆかりの願いが叶うと思うと嬉しかった。
就職活動が始まる年に僕達は一緒に住むことを決めた。
恋愛感情なんてなかったはずなのに、ある日ゆかりが他の学部の先輩から告白されたと聞いたときに僕は自分の中に隠れていた感情に気が付いた。
ゆかりには「それ遅すぎちゃうん」って言われたけれど僕達には同士という言葉に恋人という肩書きが付いた。
眼鏡女子だったゆかりがコンタクトに変えた時には、ドキドキした、もちろん目鼻立ちはもともと整っているとは分かっていたけど、凛としたところにあどけなさが残る素敵な女子になった。
2人の夢はまだまだ遠いところにあるけれど僕達は一緒に目指して行きたいと思う、その夢が叶うことはないかもしれないけれど……
だって僕達は書くことが好きなんだからしょうがない。
その頃読んだ本の中に書いてあった言葉は僕たちの背中をそっと押してくれた気がする。
『小説を書くことはもっと気楽で良い』
『生涯を捧げるべき業でなくても良い、趣味で書いて良い、暇つぶしに
書いて良い、主婦や中学生が書いて良い、とにかく自由気ままに書いて良い』
目の前にあった
その頃から、自分らしい物語を書くことが少しだけできるようになったのかもしれない。
***
ゆかりは朝が弱い、だからほとんど毎朝僕が朝食を担当している、といってもトーストとコーヒーと卵料理だけど、1人で食べていた頃はただ黙々とその日の午前中の分の栄養を補給しているに過ぎなかったはずだけど今は違う。
2人で食べるのは例えおにぎり1つでも美味しいと思える。
コーヒーの香りがする頃にゆかりは
ようやく起きてくる。
「おはよう、いつもごめんね」
毎朝そう言ってはくれるのだけど
ただ朝の挨拶にくっついてるだけだと思う、でもその言葉は少し嬉しくもある。
この春から2人は社会人になった、ゆかりは大手の銀行の窓口に立っていて、僕は何とか二流ではあるけど念願の出版社に勤めている。
仕事といえば、観光地を紹介する雑誌などだから小説などとはまったく違うけどそれなりに楽しく仕事も続けて行けそうだ。
もちろん2人とも小説は書き続けている。
小説投稿サイトには書籍化されたいと思っている人は星の数ほどいるし、どうして書籍化されていないのか分からない程の素晴らしい物語もたくさんある、こればかりはタイミングだけが悪いだけなんだろうと思う。
平日の夕飯はいつもゆかりが担当してくれる、土日や祭日は僕だって作ることもあるけれど、やっぱり家事って向き不向きがあるからね、結婚を前提に付き合っているし、そうじゃなきゃゆかりの両親はこの同棲を許してくれなかった。
***
夢を叶えるのは難しいのはわかりすぎるほどわかってはいるけれど、思えば思うほど夢は膨らんでいく。
僕が本を読むのが好きになったのは今は天国にいる母さんだった。
たくさんの絵本を読み聞かせてくれたし、そのたくさんの物語で僕は育って来たとさえ言えるだろう。
学校では教えて貰えない事を本から学んだ。
それはゆかりも同じでたくさんの本に囲まれて育って来たと思うんだ。
僕達が書く物語はまったく違うし、例えば同じベッドで眠っていても同じ夢を見ることなんて出来ないのと同じで同じ気持ちになんてなれるわけはないけれど。
だからこそ僕は書いた作品をいちばんにゆかりに見せたいし、ゆかりが書いた物を僕もいちばんに読みたい。
そうして僕らは毎日夢を語りあった
僕たちは社会人になって2年目に結婚することになった、ゆかりから「赤ちゃんが出来たかも知れない 」と聞いた時のゆかりの不安そうな顔はきっといつまでも忘れないと思う。
その頃ゆかりは仕事での人間関係に悩んでいたことを僕は知っていた。
ゆかりは産休を貰って仕事をしながら子育てをしたいとは言ったけれど、僕が母親にしてもらったように、専業主婦になって欲しいと伝えた。
それはこの時代に逆行するのかも知れないけれど、子育てこそが大切な仕事なのだと思う。
生活はやっぱり苦しくはなるだろうけれど、授かった命は絶対に守ろう。
子育てに参加するとか、手伝うなどという言葉はあまり歓迎されることではないのかも知れないけれど、精一杯寄り添って行こうと心に決めた。
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そして2020年の春に僕たちの子ども「咲」は小学校に入学する、子育てをしながらも小説を書いていたゆかりも、僕も未だに書籍化なんて出来るほどの作品は書けていないかも知れないけれど、胸を張って言えることがある。
僕達は小説を書くのが好きなんだ。
「僕たちの作品を読んでください」
自信を持ってそう言えるようになるために、僕もゆかりも書き続けていく。
【了】
*あとがき
カクヨムで小説を書いているあなたに
そしてわたし自身に捧げます。
書き手としては、5月に1歳の誕生日です(全くの素人でスタート)
自分の作品になかなか自信を持てませんけど、公開するしないに関わらずこれからも書いて行きたいと思います。
『気ままに書いて良い』
その言葉を心の中のお守りとして……
読んで下さりありがとうございました。
夢を叶えるのは難しいけれど あいる @chiaki_1116
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