夢を叶えるのは難しいけれど
あいる
前編 📕✨僕と彼女の出会い
夢を叶えるのは難しいものだと気づいたのは大学に入学した頃だった。
作家を目指してあらゆる公募にも挑戦してみたし、小説投稿サイトにもたくさんの物語を投稿した。
出版社の公募なんて読んで貰ってるのかも分からないほどかすりもしなかった。
小説投稿サイトでは
でもその程度だった。
何もかも投げ出したくなったあの日に彼女に出会った。
大学のゼミで一緒になったのは長い髪で眼鏡をかけた女の子だった。
たまたま隣り合わせた時にいきなり聞かれた。
「佐伯くん、何か夢があるの? 」
突然振られた言葉にあろう事か「小説家になりたいんだ 」
そんな夢のような事を言ってしまった。
もちろんそれは中学生の頃からの本当の夢だったし、間違いではない、でも僕はその夢を諦めようと思っていた所なんだ。
その言葉に彼女は興奮して返事を返した。
「凄いです!なんか嬉しいです、私もあまり人には言ってないけど小説家になりたいって思っていて、同じ夢を持ってる人にも初めてあったしほんとに嬉しいです! 」
その言葉に、才能ないから書くのを辞めようかと思ってるなんて言えなくなった。
「よかったら今度、恥ずかしいですけど私の作品読んでくれませんか? 意見を聞きたいし……えっと……」
「僕の名前は、佐伯、
「よろしく佐伯君、唐沢ゆかりです」
そんなきっかけで僕と彼女、佐伯文哉と唐沢ゆかりは出会った。
ファミレスでドリンクバーだけを注文して居座る、学生の特権とばかりに毎日のように通ってはお互いの作品を読みあった。
唐沢さんの作品は優しい言葉で綴られた恋愛小説が多かった。
僕が書く作品は何の変哲もない日常を描く恋愛要素少なめの現代小説だった。
僕の勧めもあって彼女も同じ投稿サイトに登録した。
唐沢さんが「
「今から投稿してみる、ドキドキする」とLINEが来てから数分後に彼女もその投稿サイトの書き手の1人となった。
僕はいち早くユーザーフォローをしてすでに何度も読んでいる作品を読んだ。
その物語は小さい時に母親を亡くして父親と2人で生きている少女が恋をして生きる意味を知っていくというピュアな恋の話だった。
さっそく読んだ僕は真っ先にコメントを書いた。
「初投稿おめでとう、楽しみにしています 」
数分後には返信のコメントが届いた
「真っ先に読んでくれてありがとう!何だか不思議ですね、こうして読んで貰えるのは恥ずかしい気もする 」
僕も初めて投稿した時はかなり緊張した、高校生になって初めて持つことになったスマホにもやっと慣れて来た時だったし、アナログでしか小説を書いて来なかったから、何度も読み返して公開のボタンを押した。
もちろん直ぐに読んでくれる人なんていなくて初めて応援のハートに読んだよと分かる印が付いたのは次の日の朝のことだった。
その頃はコメント付きのレビューはまだ貰ったことは無かったし、これからだってあまり無いかもしれない、でも僕にだって書けるのかもしれないって思ったのも確かだった。
自分が生み出した物語が画面に写し出されていることにも感動したけれど読まれたことが分かるのは凄く嬉しいものだった。
公募ガイドにはたくさんの募集が掲載されている、その中には有名な出版社もあれば食品メーカーや一般の企業が作品を募集している小さなコンテストもあった。
その中から自分の作品に合うものにはなるべく応募するようにしていた。
高校生の頃からだからもう既にかなりの数の応募経験はあった。
作品を投稿したあとは、買ったことはまったくないけど宝くじの当選番号が発表されるのを待つ気分でソワソワしてしまう。
もしかして書籍化なんてことになったらどうしよう、そんな夢のような話すら浮かんでしまっていた。
僕らの世代はやたらラノベ小説が好まれるようだけど、僕はほとんど興味はないし、もちろん書くことなんて天地がひっくり返っても出来そうになかった。
次の日の夜に「紗菜」が書いた作品『失った夜と茜色の空』にレビューコメントが付いているのに気が付いた。
その画面を見たときは自分のことのように嬉しくてソッコーでゆかりにLINEを送った。
毎日のように会って、毎晩連絡を取り合って行くうちに、お互いに名前で呼び合おうと決めてからは「文哉」「ゆかり」と呼び合うようになっていた。
僕が心のなかで定義する恋とはまったく違う感情のような気がするけれどゆかりにはまるで同士と思えるような特別な感情を持つようになっていたのかもしれない。
「すごいやん!ゆかり!僕だってまだコメントつきの星を貰ったことは数える程しかないのに、2日目に貰えてるなんて!!」
喜んだスヌーピーが踊るスタンプを送って来たあとにメッセージが届いた。
「私もびっくりしてる、文哉にこの喜びを1番に伝えたくてLINEを開いた途端にメッセージが届いたからびっくりしちゃってたところやねん!!! 」
気がつくと『紗菜』をフォローしてくる人も増え続けていった。
このサイトには学生の書き手も多いし読み専もきっと同世代も多いのだろう。
僕は定期的に更新していたし、新しい作品も投稿したりしているけれど読んでくれる人も少ないし、ゆかりの存在があったから小説は書き続けているけれど、まったく伸び悩んでいた。
才能っていうのがきっとないのだろうと思うし、そんなものは努力したから芽生えるものでもないってことくらいとっくに分かっている。
思い出すと僕は絵本に始まりたくさんの本を読んだ、中学生の頃なんか布団に潜って懐中電灯で照らして活字を目で追い続けた。
たくさんの本を読んだからといって良い作品を書けるわけもないのは分かっている、今だって小説家が無理なら、せめて活字に向き合えるような職業に着きたいと思っている。
せめてゆかりには夢を叶えて欲しいと思っていた。
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