月に恋した海月の話

つきの

月に恋した海月の話

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クラゲ(水母、海月、水月)は、刺胞動物門に属する動物のうち、淡水または海水中に生息し浮遊生活をする種の総称。体がゼラチン質で、普通は触手を持って捕食生活をしている。また、それに似たものもそう呼ぶこともある。

◆◆◆◆◆Wikipediaより◆◆◆◆◆◆◆◆


 海月と書いてクラゲと読みます。

 海の月と書くのです。

 他にも水母、水月とも書きますが、この小さな海月クラゲ自身はこの海の月という名前を気に入っておりました。


 クラゲといえば、あの半透明で、ユラユラ頼りなく浮かんでいるもの。そんなイメージです。

 小さな海月は、そんな自分があまり好きではありませんでした。


 海月の憧れは、空に浮かんでいるお月さまです。

 あの柔らかな明かり、少しずつ変わっていく姿。神秘的で優しくなんて美しいのだろうと海月は想います。


 それでもどれだけ憧れようと、お月さまは遥か空の上。

 海中を漂って生きている海月になど、気づいてすらいないでしょう。


 *


「お月さま、お月さま……」

 海月は空を見上げて呼びかけます。

「あなたは空に、わたしは海に」

「同じ月の名を持つというのに、ちっぽけなわたしは、あなたに気づいてさえ貰えない」


 海月は涙をぽろぽろと零しました。

 零れた涙はそのまま落ちて、海をまた少し塩っぱくしました。


 仲間のクラゲはわらいました。

「なんて愚かなヤツだろう。身のほど知らずにも程がある」


 それでも海月は想うことを止められませんでした。

 だってそうでしょう?

 好きになることに理由なんてないのですもの。


 ***


 その夜は満月で、丸く一段と優しげな月を、海月はうっとりと眺めておりました。


「お月さま、お月さま……」

 海月はいつものように呼びかけます。

 その時です

「いつも、わたくしに呼びかけてくれているのはあなたですか?」

 穏やかな声がしました。


「わたくしは空から降りていくことはできませんが、代わりにこの姿を海へと映しましょう」

 そう言うと、ゆらりと水面に月の姿が浮かびました。


「ああ、お月さま……」

 海月は、ほろほろと泣きました。

 今度は嬉しくて……幸せで……。


 月と海月はその夜、一晩中、色々な話をしました。

 月は空から見てきた話を。

 海月は海の中の話を。

 自分のこと、海の仲間たちのこと。


 時間はあっという間に過ぎていき、月が太陽と交代する時間がやってきました。


「ああ、もうお別れなのですね」

 海月が寂しそうにいいました。

「けれども、こうしてお話できたことを忘れません。わたしはこれからもずっと、あなたをお慕いしております」


「ありがとう。わたくしも、この楽しかった時間を忘れません」

 月も言いました。

「わたくしとあなたは空と海とに離れてはいますけど、わたくしはこれからもずっと、空からあなたを想い、照らし続けておりますよ」


 海に映っていた月はその姿を揺らすと、海に溶けるように消えていきました。

 見上げると空は少しずつ明るくなっていて東雲色しののめいろに染まろうとしています。



 幸せそうな海月がユラユラと海に浮かんで、空を見上げておりました。



 ☪︎*。꙳ おしまい ☪︎*。꙳

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