第3頁 ヒトガタとの接触
私はまるもふに乗って小さな扉から飛び出た。
白い光で眩しく感じて思わず目を瞑ってしまったが、すかさず目をこすって治す。
さっきポケットに入れた巨大化クッキーを少しずつ食べて、元の大きさに戻してから周りを見た。
草原に、1つの湖を見つけた私はまるもふに問う。
「まるもふ、あれは何?」
まるもふを持ち上げて、彼?にも見れるようにする。
「あれは涙の水溜まりだね」
「涙の水溜まり?おかしいよそんなの。涙は一生かけてもあれだけ出るはずないし」
琵琶湖…までは行かないが、四尾連湖程はあるんじゃないだろうか。
湖には白鳥が居たり、日光が反射して綺麗な印象が持てる。
「不思議の国に来たなら、わざわざそんなことを気にしてたら行けないよ。大きなキノコ、喋る卵、トランプ兵士、巨大チェス…涙の水溜まり。不思議の国はとにかくなんでも不思議なんだ」
「はええぇ……。それより、あれ」
私が指さしたのは鳥やネズミが大暴走している列だ。
ほんと、この空想区に来て息をつく暇もないな。
土煙をもうもうと上げながら近づいてくる鳥とネズミの最後列には。
「ヒトガタ!?どうするまるもふ」
ヒトガタが動物達を追いかけ回していることで、群れが暴走しているようだ。
数匹の組が何組か居て、すぐにでも助けないと動物達が食べられそうだ。
「助けないと物語の進行に影響が出てしまう、お願い」
私は再びメルヒェン・ソードを握って、動物の群れまで走っていった。
・・・・・
「馬、馬…」
乗馬技術なんてものは無いけど、物語の登場人物なら大丈夫でしょ!
私は動物達の中から馬を探して、それに飛乗る。
「よろしくね」
首をそっと撫でて、馬に敵意が無いことを伝えてから、私は後ろにいるヒトガタの群れに視線を向ける。
「10体…行けるか、?」
さっきの4匹こそ剣を振り回して倒すことが出来たが、今度はどうか分からない。
「いや、やるんだ!」
物語のためならなんだってやるよ!かかってこいやヒトガタ達!
「ぐるらぁぁあ!!!」
初撃は不意打ちで身体を斬って一撃。次からは敵にバレているので、もう正面衝突だ。
馬には綱がないので操縦ができない。ただ逃げ惑う馬から確実に攻撃を当てないと。
ただ、ヒトガタ達に遠距離で攻撃してくる方法がないのが救いだ。近づかなければそれほど驚異ではない。
「来るな来るな来るな!」
馬の後ろの方に座って、メルヒェン・ソードを振り回すと、何故かヒトガタは2匹減っていた。
おっと、これは行けるのでは?
ヒトガタ残り7匹に対して私はノーダメージ。
「まるもふ!…は今遠くだっけ」
わずか40分前に出会ったばかりなのに、彼を頼りきりにしていた自分に恥ずかしくなった。
確かに、分からないことがあったら全部まるもふに聞いてたかも……。
「馬くん、止まって!」
そう言うと、人の言葉がわかるのか、馬はみるみる減速して私が着地できるほどまで遅くなった。
「ありがとね!」
私を下ろした馬は一目散に逃げ去り、ここにいるのはヒトガタと私のみだ。
「メルヒェン・ソードの錆にしてやるー!おりゃ、おりゃ!」
運動をあまりしてこなかった自分を恨む…と思っていたが、そう言えばアリスの筋力なんだっけ。
でも身体の動かし方は私だから、剣術とかもっと習っとくんだったなぁ。
「ぐるる……」
1匹のヒトガタに気を取られていた私は、後ろからの攻撃に気付かず、モロにくらってしまった。
「ああっ……!!」
痛い…。そうだ、ここは物語の中でも現実なんだ。あんな鋭い爪で引っ掻かれたら痛いに決まってる。
痛さの恐怖と現実の実感で息を飲み、少し楽しいと感じた私はもっと本気を出すことにする。
「てあっ!」
空をも斬る程の速さで振り下ろされた剣はヒトガタを真っ二つにして、次のヒトガタへ向かう。
御伽の力とやらを何かは知らないが、ただの剣では無いようで、まるで意志を持って動いているような…そんな気がする。
軌跡を残す剣先は次々にヒトガタを投げ倒し、いつの間にか残り1匹になっていた。
「よし、行くよ!メルヒェン・ソード!」
しゅぅぅ……
え、何この効果切れみたいな音。
先程まで光っていたメルヒェン・ソードは光を失い、黒ずんでいる。
これは私の経験からすれば…効果切れだ!
となると、取るべき行動は1つ!
「逃げろー!!!!」
「ぐるらぁ!!」
私の全力疾走。いや、アリスの全力疾走は意外にも速く、自転車並みのスピードは出てるんじゃないだろうか。
剣を背中の鞘に納めて、両腕を振って全力で走る!
「まるもふ!」
子丘の上にまるもふが跳ねているのが見えて、思わず叫ぶ。
あそこに行けば何かあるのか?
私は地面を蹴って進む。草を蹴り飛ばし、小動物を飛び越えてようやく着いたのは子丘。
「この下に飛びるんだ」
まるもふはそう言った。30m下の湖に落っこちろと。
「え、えぇ!?」
「落ちる時にヒトガタを斬るのを忘れずにね」
そうは言ってもまるもふさん。それは厳しいお願いだよ……。
ヒトガタはどんどん近づいてくるのに対し、私は崖下の湖を眺める。
「深さどれぐらいなんだ……?」
「早く降りないと追いつかれるよ」
「なんでいつも冷静なんだよ!」
動物?に対し本気のツッコミを入れたところで、私も腹をくくる。
「まるもふ、行くよ!」
その声にまるもふは反応して、私の頭に乗る。
下に向かってジャンプ!&水平斬り!
「ぐらぁっ!?」
ヒトガタは降り際にメルヒェン・ソードで倒したとして、後はこの……。
「ぅおちるー!!」
パラシュート無しの自殺行為。
まるもふを必死に落ちないように抱きながら、重力を感じて下へ落ちていく。
ドボンっ!!
水しぶきと音と共に私とまるもふは【涙の水溜まり】へ着水した。
それに、涙の水溜まりに落ちたのは私だけじゃない。
さっきまで追いかけられていた動物達が水の中に隠れていた。
「ぷはっ!」
とりあえず空気を求めて水から顔を出す。
「居ない……か」
「ねぇ、君何してるの?」
話しかけてきたのは、茶色のカモだ。黄色いくちばしがよく目立つ。
「君はアリスなんだから、それらしく振る舞うんだよ」
まるもふが小声で呟いた。
そんなこと言ってもなぁ……。セリフも知らないのに。
「こんにちは!私はアリス。不思議の国に迷い込んじゃったみたいなの」
「そうかい、君も濡れてるし僕の濡れてるよね?乾かすために、僕達とレースしようよ」
カモがそう言った。濡れてるからレースという結論には至らないが、とりあえず頷いておく。
「いいよ、まるもふ!」
私の声で、まるもふは頭の上に乗る。
「いちについて、よーーーい!どん!」
乾かすために、動物と大レースをすることになりましたとさ。
忘却のメルヒェン 秋風 紅葉 @momiji-0127
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。忘却のメルヒェンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます