オンナのコ

藍咲 慶

オンナのコ

 先月22歳になった雄大は、いろいろと変わっている。というのも、彼の職場の呼び名は”ユウちゃん”。その名にふさわしく、化粧をし、性別を変え、酒を飲む。そういう人間であり、そういう人生を送っている。永久脱毛した肌、濃すぎないメイク、サラサラのロングヘアー。シャンパンを飲むときの豪快さを除けば、れっきとしたオンナのコである。

 しかし、彼女はまだ「自分は女じゃない」と思っている。これでもか、と美容やカラダにお金をかけるも、どこかが大きく違うと感じている。そんな時、mother gooseの「女の子は・・・」という有名な詩を見つけてきたのだった。


「おはよー!ユウちゃん!」

「おはよう、トモちゃん!」

 この人はトモちゃん。アタシの同期で、同じ新人として修業中。

「やー、今日も一段と可愛いねー!」

「そんなことないですよ。トモちゃんだって今日の服バッチリよ」

 とアタシは言っているけれど、トモちゃんは脱毛がまだ途中。だから、せっかくの服も台無し、なんて言わない。

「ありがと!よし、今日もがんばろー!」

「おー!」

 めげずに前へ進むところが、彼女の強み。何度救われてきたことか。


「ねぇ、トモちゃん。女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かでできているって詩知ってる?」

「うん、なんとなく知ってるよ。海外の詩でしょ」

「そうそう。でさぁ、この詩の通りなら、アタシたちってお砂糖とスパイスと素敵な何かで作られているってことだよね」

「そうだね!というかそれ以前に、カエルとかカタツムリだとかで作られてるのは生理的に無理!!」

 いや、なんとなく知ってるの範囲超えてきた。これ絶対、英語版も暗記してるよ。すげえなぁ、智哉。すげえなぁ、早○生。

「ちょっと、アンタたち。オープンまで時間ないんだ、さっさと支度してよ」

 この姉御肌。この強い声。彼女は、この”ゲイバーHOTEI”のNo.1でありアタシたちの師匠、ユキさんである。

「「す、すいません!!」」

 怒るとすごく怖い。だが、愛情に満ちていてアタシたちはすごく尊敬している。

「女の子はお砂糖と、スパイスと、素敵な何か、だって? ファンシーもほどほどにしてよ。いいかい、女の子はそんなものじゃ作れないの。お化粧とお酒とお金よ」

 なんて不愛想な。

「夢の無い」

「んん? 何か言った?」

「い、いえ。なんでもないです!」

 思わず口が滑った。トモちゃんは必死に笑いをかみ殺している。


 支度をしながら思った。ユキさんの日頃のツンツンしたものってスパイスなのではないか? そう思ったら口が勝手に動いた。

「ユキさんのツンツンしているところって、なんだか愛情がある気がします。それこそ、スパイスみたいです」

「な、な、なに言ってんの。別にいつもこういう感じだよ」

 赤面するユキさん。珍しい。ちょっと頬の肉が上がっているのがかわいい。

「あ、照れてるー! ユキさんが照れるなんて初めて見たー!」

 トモちゃん、ナイスアシスト。アイコンタクトを送る。

「照れてるとか、そういうのじゃないし」

 自然とアヒル口になってるユキさん。全方向から見ても、カワイイ女の子にしか見えない。

「そういう、カワイイところがお砂糖かなー?」

 トモちゃん、まとめまでありがとう。

 あとは、素敵な何か。一体、どこにあるんだろう。

『ご指名、入りマース!!! ユキちゃん、ソースケさんがお呼びデース!!!』

 支配人の布袋さんがユキさんを呼ぶ。

「あ、いかなきゃ! アンタたちもくだらないこと話してないでちゃんと働いてよ」

 そういって、小走りに駆けていくユキさん。その瞬間の目の輝き、眩しい笑顔、足取りの軽さ。

「あれが、素敵な何かか」

 だから、アタシは女じゃないのかとわかった場面でもあった。

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