[短編]もう一度……異世界でも嫁に会いたい
水銀✿党員
[短編]もう一度……異世界でも嫁に会いたい
「ねぇ、ヒロ君。もしも生まれ変わったら何になりたい?」
「何も……別に人間がいい」
「それはどうして?」
「……今が幸せだからか? 最近、やっと仕事も覚えたし。技術も手に入った。生きて行けると自信が生まれたら人間って幸せ者だなと思うよ。健常者で良かったさえ思う」
「私のことは?」
「出逢えて良かったけど……恥ずかしい、言わせるな」
「言ってよぅ!! 好きぃヒロ君」
「……」
*
「……ねぇ、ヒロ君。たぶんさぁ、私の方が早く亡くなるね」
「いや、わからんけど……まぁ。その、そうだろうな……俺は先に行きたいよ」
「私が嫌だ。寂しすぎる。辛すぎる」
「わからんぞぉ~世の中、事故や病気でポックリ行くからな。明日には~とか」
「……嫌だよ? 怖いこと言わないで」
「まぁ、気を付けて運転するよ。飯……喰いに行こう」
「うん!! 行くぅ」
*
「あっ……記憶? 俺は転生者だったのか……若い子たちで流行っていた……異世界転生なんて身を持って感じる日がくるとは……記憶も混じるのか……」
「……神も酷なことを。死んでしまったのか……俺は」
「あいつを残して……死んでしまったのか?」
「なんで、死んでしまったんだ? 俺……」
「あいつは元気だろうか?」
「確認する方法はないか……」
*
「なんでお前みたいな優秀な騎士が辞めるんだよ。生活も比較的に安泰だろ」
「……神でもわからない事はあるんだ。ちょっと冒険者になりたいと思ってるんだよ」
「危ないだろ、冒険者は……」
「昔より平和だ。旅行者だって冒険者だし、見識を広めるにはいいさ」
「……はぁ、今月入って辞める奴が多すぎだろ。そんなに冒険者で色んな所に行きたいかね」
「いやいや、若い子はいくじないからねぇ。でも、残った若い子は元気だろ?」
「元気さ、わかったよ。俺は止めない。たまには顔を出して、話を聞かせてくれよ」
「もちろんさ」
*
「ごめん、俺は冒険者になって旅をするよ……」
「そうなの? わざわざ、幼馴染の私に言うのね」
「昔からの馴染みだからな」
「どこ行くの?」
「都市巡礼かな……行く宛はないよ」
「不安ねぇ。ねぇ、私も連れていってくれない?」
「危ない」
「これでも私は強いよ。背中を預けれる。無理矢理ついていくからね」
「わかった、わかったよ……まぁ大分整備されてるから楽だろう。ギルドカードは?」
「あるよ」
「なら、行こうか」
*
「ねぇ、どうして……騎士を唐突にやめて旅を?」
「……笑わないで欲しい」
「幼馴染なんだから、大丈夫。笑わない」
「ありがと。その、前世の記憶が蘇ったんだ」
「前世の記憶?」
「ああ、前世の記憶だ。こことは違った世界の話さ」
「それと旅はどう関係するの? 旅をしたい理由は?」
「旅をしたい理由は……ただ、昔の記憶が邪魔をして。居てもたっても居られなかったんだ」
「うん」
「前世は非常に長く妻と一緒だった。妻は病弱で毎日薬を飲まないといけなかった。体力もなく、家に居ることが多い子だったよ」
「えっ……結婚してたの?」
「その反応、自分自身も思ってたさ。結婚しないと思ってた。でも、家に帰ると家は明るいし。ご飯は炊いてあるし。顔を見ると結婚してたなといつも言って。嫁さんを困らせて……うん……まぁ色々あった」
「うわぁ、生々しいね。本当に見てきたみたい。恥ずかしい」
「恥ずかしい話だな。ノロケみたいな……だからさ」
「うん」
「幼馴染に言うのもあれだけど……今は凄く寂しいんだ」
「……」
「旅の理由はそれだけさ、寂しさを紛らわせるために」
「ふ~ん、ちょっと……なんでもない」
「俺に気があったのか?」
「そんなことないわよ?」
「……」
*
「本当に昔より不便だ」
「なに? 異世界が恋しくなった?」
「まさか……こっちのが人は暖かいよ。働くのも真面目だし、他人には行儀もいい。衛生も綺麗だし……」
「元の世界はどれだけ荒んでたのよ」
「いや、皆。余裕がなかったんだよ。毎日毎日な」
「私らも余裕がないけどね!!」
「そうだな。路銀稼ごう。なぁ、なんで無一文で出てきたんだ?」
「……親には何も言ってないの」
「……本当に?」
「本当に」
「はぁ、手紙書けよ……不安がるぞ」
「わかった。駆け落ちしますと書けばいい?」
「バカ言え………………殺される」
「まぁた、そんな顔をする。昔の女の人を思い出したでしょ」
「……すまん。俺の妻は浮気は絶対に嫌がってたからな。独占欲強い嫁だったんだよ」
「へぇ~本当に忘れられないんだね」
「人生の半分以上は一緒だった。子供はいなかったな。嫁が病気で薬を辞められないから……作れなかったんだよ。禁句さ、子供作ろうなんて」
「……ねぇ、もっと嫁さんの話を聞かせてよ?」
「ん? 面白くないだろ?」
「面白い、面白くないじゃない。吐き出していこう、その人の思い出を……」
「ああ、そうだな。吐き出して整理しようかな」
*
「ねぇ、もしも……この世界でその人に会ったらどうする?」
「いないだろ?」
「もしもよ」
「そうだなぁ……遠くで見て、幸せならいいな。確かに俺は『もう一度、異世界で嫁に会いたい』と思ってる」
「幸せじゃなかったら?」
「……もう一度。幸せにしたいかな。今度こそ最後まで添い遂げてあげたい……先に亡くなったのは……辛かった筈だ。まぁ相手も前世を覚えてたらの話さ」
「純愛だね」
「嫁の方が凄かった。とにかく、激しくボディタッチが多かったな。好意の言葉なんて日に何度も。ハグなんて一年で365回以上だった」
「へぇ~こんな感じかしら?」
「いや、真正面で首にすぐ絡みついた。いい歳になっても」
「……その人、綺麗だった?」
「あぁ~そうでもない。不細工よりだったかな。でも、可愛かった。君より不細工だぞ」
「ひどい事を言うね。中身に惚れた感じ?」
「中身と不幸と同情」
「同情って……」
「病気持ちだったから……このまま誰とも結婚出来ないと思ったんだよ。結果、嫁もそう言ってたな。まぁ、偽善者だった」
「……偽善者で一人の女の子を幸せ者にしたんだね」
「いいや。最後は勝手に死んで悲しませたよ……本当に……悪いことをした」
「まだ、納得出来ない?」
「出来ないだろう……思い出はそう軽いもんじゃない……失って気付くと言うな……みんなは」
「私より?」
「……すまん」
「幼馴染でも、勝てない思い出の量ってすごい」
「いや、何十年分だからな? この世界ではまだまだ若い」
「ほぇ~おっさんみたい」
「おっさんになってしまった……」
*
「ねぇ、そろそろ思い出。尽きる頃でしょ、多くの場所も行ったし」
「まぁ、大分……整理できたけど。寂しい気持ちはあるな。美味しいのを食べると連れて来たいとか。綺麗な光景を見ると見せてやりたいとか……どうも、そんなことを思ってしまうよ」
「ふ~ん、愛されてるね」
「自分は友達と疎遠だったからな。嫁にその分、まわって来てたんだよ。共有することも楽しいし、経験したことを話すのが好きだったんだ」
「あっそれ今もでしょう? 興味津々で旅してるよね」
「まぁね。友人が待っている。話をな」
「……ねぇ、私さあそこ行きたい。あの場所へ」
「この前言ってた場所か? 多いぞ人」
「うん、でも行ってみたい……」
「わかった。行こう」
*
「本当に見晴らしのいい丘だな」
「ええ、綺麗な場所ですよね。準、聖域だから、許可いるんだね」
「荒らされるのを嫌ってるんだよ。最長30分だけなんてな……それも男女のみ」
「1日、数人しか入れないんだってね。それも選ばれた人しか……流石、元騎士なだけあるね」
「ああ、騎士だったから入いれたな」
「ええ、入れた。運が良かったね……入れなかったらどうしようか考えたよ」
「そうか……でも、確かにここは有名な場所だ。いいのか? こんな場所を俺と来て」
「……大丈夫。私が一緒に来たかったから」
「ん? 告白でもするのか? 生憎、嫁は一人と決めてるのでね」
「知ってるわ……誰よりも、ずっとね。あなた」
「え!?」
「ふふ、聞き慣れないよね。いつも名前呼び、私をちゃん呼びか呼びすてだけだったから」
「ちょっと待ってくれ!? 演技だよな!?」
「ふふ、ヒロ君が狼狽えるのかわいい」
「……名前を」
「エリ、あなたはエリちゃんと呼んでくれてた」
「言った覚えはない……そうか。お前も生まれ変わってたのか……そっか……いつから?」
「小さい頃……あなたと会ったあの日から」
「なんで黙ってたんだよ!!」
「……あなたは記憶がなかった。そして、私は生まれ変わって元気な体。言うことはせず。ずっとね、黙って一緒に居たかったの」
「いや!? おれが前世の記憶を話した時はなぜ!?」
「いっぱい理由あるよ。先に亡くなった事への復讐と私が生前出来なかった。旅行もしたっかたの……それに、あなたは私へのそこまで感情を話したりしないでしょ? 恥ずかしいから。いつも口に出すのは私ばかり……ちょっとは喜びたいじゃん」
「はぁ……その思考。本当に……こんな所で告白されるとは……」
「ねぇ、あの言葉を旅で何度も聞いた。言葉を言って欲しいな」
「……もう一度、異世界で嫁に逢いたかった」
「私も逢いたかったよ。あなた……もう一度……今度はおいてかないで。ついていくから」
「もちろん……もう二度と置いていかない……愛してた」
「今は?」
「幼馴染の君を愛してる」
「……素直でうれしい。大好きよ。ヒロ君」
*
「これからどうする? 俺はもう、騎士に戻ろうかと考えてる」
「私はもっと旅をしたい。前世出来なかったことも全部」
「貪欲だなぁ」
「健常者はわからないのです。体が元気だから、出来る事が多いことを」
「知ってる。いつも羨ましい聞かされてたからな」
「だけど、騎士に戻るのは賛成」
「どうして?」
「落ち着かせたらさ……子供欲しいな。前世はごめん」
「気にするな……今度はしっかり作ろうな」
「ありがとう、大好き」
「好意がわかりやすい……本当に嫁だなぁ」
「そうやって呆れるのも、旦那だなぁ」
「ははは」
「ふふふ」
「行こうか、異世界も悪くない」
「あら、異世界なんて昔は言ってたのに?」
「それはこれ、これはこれ……行こう」
「はい、行きます。ヒロ君」
[短編]もう一度……異世界でも嫁に会いたい 水銀✿党員 @suiginntouinn
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます