[短編]もう一度……異世界でも嫁に会いたい

水銀✿党員

[短編]もう一度……異世界でも嫁に会いたい



「ねぇ、ヒロ君。もしも生まれ変わったら何になりたい?」


「何も……別に人間がいい」


「それはどうして?」


「……今が幸せだからか? 最近、やっと仕事も覚えたし。技術も手に入った。生きて行けると自信が生まれたら人間って幸せ者だなと思うよ。健常者で良かったさえ思う」


「私のことは?」


「出逢えて良かったけど……恥ずかしい、言わせるな」


「言ってよぅ!! 好きぃヒロ君」


「……」




「……ねぇ、ヒロ君。たぶんさぁ、私の方が早く亡くなるね」


「いや、わからんけど……まぁ。その、そうだろうな……俺は先に行きたいよ」


「私が嫌だ。寂しすぎる。辛すぎる」


「わからんぞぉ~世の中、事故や病気でポックリ行くからな。明日には~とか」


「……嫌だよ? 怖いこと言わないで」


「まぁ、気を付けて運転するよ。飯……喰いに行こう」


「うん!! 行くぅ」







「あっ……記憶? 俺は転生者だったのか……若い子たちで流行っていた……異世界転生なんて身を持って感じる日がくるとは……記憶も混じるのか……」


「……神も酷なことを。死んでしまったのか……俺は」


「あいつを残して……死んでしまったのか?」


「なんで、死んでしまったんだ? 俺……」


「あいつは元気だろうか?」



「確認する方法はないか……」





「なんでお前みたいな優秀な騎士が辞めるんだよ。生活も比較的に安泰だろ」


「……神でもわからない事はあるんだ。ちょっと冒険者になりたいと思ってるんだよ」


「危ないだろ、冒険者は……」


「昔より平和だ。旅行者だって冒険者だし、見識を広めるにはいいさ」


「……はぁ、今月入って辞める奴が多すぎだろ。そんなに冒険者で色んな所に行きたいかね」


「いやいや、若い子はいくじないからねぇ。でも、残った若い子は元気だろ?」


「元気さ、わかったよ。俺は止めない。たまには顔を出して、話を聞かせてくれよ」


「もちろんさ」





「ごめん、俺は冒険者になって旅をするよ……」


「そうなの? わざわざ、幼馴染の私に言うのね」


「昔からの馴染みだからな」


「どこ行くの?」


「都市巡礼かな……行く宛はないよ」


「不安ねぇ。ねぇ、私も連れていってくれない?」


「危ない」


「これでも私は強いよ。背中を預けれる。無理矢理ついていくからね」


「わかった、わかったよ……まぁ大分整備されてるから楽だろう。ギルドカードは?」


「あるよ」


「なら、行こうか」







「ねぇ、どうして……騎士を唐突にやめて旅を?」


「……笑わないで欲しい」


「幼馴染なんだから、大丈夫。笑わない」


「ありがと。その、前世の記憶が蘇ったんだ」


「前世の記憶?」


「ああ、前世の記憶だ。こことは違った世界の話さ」


「それと旅はどう関係するの? 旅をしたい理由は?」


「旅をしたい理由は……ただ、昔の記憶が邪魔をして。居てもたっても居られなかったんだ」


「うん」


「前世は非常に長く妻と一緒だった。妻は病弱で毎日薬を飲まないといけなかった。体力もなく、家に居ることが多い子だったよ」


「えっ……結婚してたの?」


「その反応、自分自身も思ってたさ。結婚しないと思ってた。でも、家に帰ると家は明るいし。ご飯は炊いてあるし。顔を見ると結婚してたなといつも言って。嫁さんを困らせて……うん……まぁ色々あった」


「うわぁ、生々しいね。本当に見てきたみたい。恥ずかしい」


「恥ずかしい話だな。ノロケみたいな……だからさ」


「うん」


「幼馴染に言うのもあれだけど……今は凄く寂しいんだ」


「……」


「旅の理由はそれだけさ、寂しさを紛らわせるために」


「ふ~ん、ちょっと……なんでもない」


「俺に気があったのか?」


「そんなことないわよ?」


「……」





「本当に昔より不便だ」


「なに? 異世界が恋しくなった?」


「まさか……こっちのが人は暖かいよ。働くのも真面目だし、他人には行儀もいい。衛生も綺麗だし……」


「元の世界はどれだけ荒んでたのよ」


「いや、皆。余裕がなかったんだよ。毎日毎日な」


「私らも余裕がないけどね!!」


「そうだな。路銀稼ごう。なぁ、なんで無一文で出てきたんだ?」


「……親には何も言ってないの」


「……本当に?」


「本当に」


「はぁ、手紙書けよ……不安がるぞ」


「わかった。駆け落ちしますと書けばいい?」


「バカ言え………………殺される」


「まぁた、そんな顔をする。昔の女の人を思い出したでしょ」


「……すまん。俺の妻は浮気は絶対に嫌がってたからな。独占欲強い嫁だったんだよ」


「へぇ~本当に忘れられないんだね」


「人生の半分以上は一緒だった。子供はいなかったな。嫁が病気で薬を辞められないから……作れなかったんだよ。禁句さ、子供作ろうなんて」


「……ねぇ、もっと嫁さんの話を聞かせてよ?」


「ん? 面白くないだろ?」


「面白い、面白くないじゃない。吐き出していこう、その人の思い出を……」


「ああ、そうだな。吐き出して整理しようかな」





「ねぇ、もしも……この世界でその人に会ったらどうする?」


「いないだろ?」


「もしもよ」


「そうだなぁ……遠くで見て、幸せならいいな。確かに俺は『もう一度、異世界で嫁に会いたい』と思ってる」


「幸せじゃなかったら?」


「……もう一度。幸せにしたいかな。今度こそ最後まで添い遂げてあげたい……先に亡くなったのは……辛かった筈だ。まぁ相手も前世を覚えてたらの話さ」


「純愛だね」


「嫁の方が凄かった。とにかく、激しくボディタッチが多かったな。好意の言葉なんて日に何度も。ハグなんて一年で365回以上だった」


「へぇ~こんな感じかしら?」


「いや、真正面で首にすぐ絡みついた。いい歳になっても」


「……その人、綺麗だった?」


「あぁ~そうでもない。不細工よりだったかな。でも、可愛かった。君より不細工だぞ」


「ひどい事を言うね。中身に惚れた感じ?」


「中身と不幸と同情」


「同情って……」


「病気持ちだったから……このまま誰とも結婚出来ないと思ったんだよ。結果、嫁もそう言ってたな。まぁ、偽善者だった」


「……偽善者で一人の女の子を幸せ者にしたんだね」


「いいや。最後は勝手に死んで悲しませたよ……本当に……悪いことをした」


「まだ、納得出来ない?」


「出来ないだろう……思い出はそう軽いもんじゃない……失って気付くと言うな……みんなは」


「私より?」


「……すまん」


「幼馴染でも、勝てない思い出の量ってすごい」


「いや、何十年分だからな? この世界ではまだまだ若い」


「ほぇ~おっさんみたい」


「おっさんになってしまった……」





「ねぇ、そろそろ思い出。尽きる頃でしょ、多くの場所も行ったし」


「まぁ、大分……整理できたけど。寂しい気持ちはあるな。美味しいのを食べると連れて来たいとか。綺麗な光景を見ると見せてやりたいとか……どうも、そんなことを思ってしまうよ」


「ふ~ん、愛されてるね」


「自分は友達と疎遠だったからな。嫁にその分、まわって来てたんだよ。共有することも楽しいし、経験したことを話すのが好きだったんだ」


「あっそれ今もでしょう? 興味津々で旅してるよね」


「まぁね。友人が待っている。話をな」


「……ねぇ、私さあそこ行きたい。あの場所へ」


「この前言ってた場所か? 多いぞ人」


「うん、でも行ってみたい……」


「わかった。行こう」




「本当に見晴らしのいい丘だな」


「ええ、綺麗な場所ですよね。準、聖域だから、許可いるんだね」


「荒らされるのを嫌ってるんだよ。最長30分だけなんてな……それも男女のみ」


「1日、数人しか入れないんだってね。それも選ばれた人しか……流石、元騎士なだけあるね」


「ああ、騎士だったから入いれたな」


「ええ、入れた。運が良かったね……入れなかったらどうしようか考えたよ」


「そうか……でも、確かにここは有名な場所だ。いいのか? こんな場所を俺と来て」


「……大丈夫。私が一緒に来たかったから」


「ん? 告白でもするのか? 生憎、嫁は一人と決めてるのでね」


「知ってるわ……誰よりも、ずっとね。あなた」


「え!?」


「ふふ、聞き慣れないよね。いつも名前呼び、私をちゃん呼びか呼びすてだけだったから」


「ちょっと待ってくれ!? 演技だよな!?」


「ふふ、ヒロ君が狼狽えるのかわいい」


「……名前を」


「エリ、あなたはエリちゃんと呼んでくれてた」


「言った覚えはない……そうか。お前も生まれ変わってたのか……そっか……いつから?」


「小さい頃……あなたと会ったあの日から」


「なんで黙ってたんだよ!!」


「……あなたは記憶がなかった。そして、私は生まれ変わって元気な体。言うことはせず。ずっとね、黙って一緒に居たかったの」


「いや!? おれが前世の記憶を話した時はなぜ!?」


「いっぱい理由あるよ。先に亡くなった事への復讐と私が生前出来なかった。旅行もしたっかたの……それに、あなたは私へのそこまで感情を話したりしないでしょ? 恥ずかしいから。いつも口に出すのは私ばかり……ちょっとは喜びたいじゃん」


「はぁ……その思考。本当に……こんな所で告白されるとは……」


「ねぇ、あの言葉を旅で何度も聞いた。言葉を言って欲しいな」


「……もう一度、異世界で嫁に逢いたかった」


「私も逢いたかったよ。あなた……もう一度……今度はおいてかないで。ついていくから」


「もちろん……もう二度と置いていかない……愛してた」


「今は?」


「幼馴染の君を愛してる」


「……素直でうれしい。大好きよ。ヒロ君」







「これからどうする? 俺はもう、騎士に戻ろうかと考えてる」


「私はもっと旅をしたい。前世出来なかったことも全部」


「貪欲だなぁ」


「健常者はわからないのです。体が元気だから、出来る事が多いことを」


「知ってる。いつも羨ましい聞かされてたからな」


「だけど、騎士に戻るのは賛成」


「どうして?」


「落ち着かせたらさ……子供欲しいな。前世はごめん」


「気にするな……今度はしっかり作ろうな」


「ありがとう、大好き」


「好意がわかりやすい……本当に嫁だなぁ」


「そうやって呆れるのも、旦那だなぁ」


「ははは」


「ふふふ」


「行こうか、異世界も悪くない」


「あら、異世界なんて昔は言ってたのに?」


「それはこれ、これはこれ……行こう」


「はい、行きます。ヒロ君」














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