最終話 『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達ゲーマーズ~ その2
そして、ミケだけど、彼女はこの2年間で英語を勉強して普通に喋れるようになっていた。その勉強につき合った俺を褒めたい。
それと、ミケに恋人が出来た。相手は俺。そう、俺。だって、ミケしか女性の顔が分からないんだから仕方がない。
あの人工頭脳との戦いで、突然ミケの顔が認識出来たけど、俺は何時ものようにすぐ忘れると思っていた。
だけど、何故かミケの顔だけはずっと記憶に残り続けた。
理由は分からない。一応、精神科医の叔母に相談してみたけど、彼女も原因は分からなかった。このヤブ医者め。
今でも変わらず、時々俺を汚物でも見る様な目で見るが、どうやらこれは俺に対する求愛信号だったらしい。
それを教えてくれたねえさんに「そんな求愛信号、誰も理解できねえよ」言ったら、逆に気付けない俺が叱られた。解せぬ。
だけど、ミケと付き合っていくうちに、何となく俺もミケに愛情を感じ始めた。世の中不思議な事もあるものだ。
そんなある日、ミケから両親に会ってくれと頼まれた。
どうやらミケの両親は、彼女がアメリカに行くことに反対しているらしく、その説得を俺がしなければいけないらしい。何それ、ハードルの高いミッションだな。
俺がミケの両親と会った時、最初にミケが自分の恋人と紹介したから、父親から射殺すような目で見られた。時と場合を考えて物を言え。
逆に母親は、俺の顔を見るなりミケに向かってサムズアップ。どうやら、母親はメンクイらしい。
そして、話をしているうちに、俺が棚ぼたの億万長者と知った父親は、クルっと掌を返して娘をよろしくと頭を下げた。良いのかそれで?
何となく結婚の報告みたいな感じになったけど、とりあえずミケのアメリカ行きの了承を得ることが出来た。
だけど、その話し合いの結果、何故か俺とミケはアメリカで同棲を始めるらしい……?
最後に俺について話そう。
『ワイルドキャット・カンパニー』の経営はインフィニティに投げっぱなしにして、今までと同じく普通に大学へ行き、体を鍛え、ゲームで遊んでいた。
増えた事と言ったら、AAW2の中で皆と会って、俺達が作るゲームについて打ち合わせをするぐらい。
大学生なんだから遊んだって良いよね。就職活動? 税金対策で会社を作ったら社長になりましたが何か?
そして、気づいたら『ワイルドキャット・カンパニー』の時価総額が5億ドルを軽く突破していた。
アメリカへ行く前日、テレワークでインフィニティと話をしていた時、その金額を聞いて思わず茶を吹いた。
「うわ! 汚な!! ……それだけ父さんの作ったVRシステムと開発ツールが凄いって事だよ」
モニターの中のインフィニティが、俺が噴き出す様子を見て身を後ろに引いたけど、モニター越しだから気にするな。
「さては報告書を読んでないね。一応社長なんだから、目ぐらい通して欲しいな」
面倒くさくて、読んでません。
「卒論で忙しかったんだ」
そう言い訳をするとジト目で見られた。言った瞬間に嘘がバレたらしい。
「去年の段階で2億ドル超えてましたけど? まあ、すぴねこ君だし仕方がないか。今、簡単に説明するね」
「ああ、頼む」
インフィニティの報告によると、俺が特許を取得した後でインフィニティは、VRシステムのライセンスと製品の製品販売。それと、そのVRシステムを開発するツールを製品販売していた。
その開発ツールは、ある程度の開発知識があれば、あらゆるジャンルのゲームを作れる、夢の様なネットワークシステム開発ツールだった。
VRシステムを販売すると、既存のVRシステムは忘れ去られ、ビショップの作ったVRシステムに切り替わる。
それはゲーム業界だけでなく、軍事、医療、大学など様々な企業と国が購入した結果、VR全体に革命が起きた。
そして、そのVRシステムを独占販売していた『ワイルドキャット・カンパニー』は、たった2年で5憶ドル以上の売り上げを得たらしい。
「と言う事だよ。分かった」
「ああ、十分分かったというか、会社の時価総額以外は全部知ってたよ」
そう言うと、インフィニティが肩を竦めた。
「それならそうと先に言って欲しかった」
「お前と話をしたかったんだから、仕方がない」
「そう言うのは、僕じゃなくてミケに言って。それじゃ、以上で報告は終わり。皆、アメリカで待ってるから、寝坊して飛行機に乗り遅れる事のないようにね」
そう言うと、モニターからインフィニティが消えた。
「さて、茶漬けでも食うか」
目的地に着いて車から降りると、冷たい風が俺の頬に触れて髪を靡かせる。
季節は春だけど、雪の残るモンタナの大地は白く空は雲で覆われて、灰色の空が寒さをひきたてた。
雪の大地を歩き、ビショップの眠る墓の前に立った。
そのビショップの墓は、丘の上にあって大きな湖が見下ろせる奇麗な場所に立っていた。
「よう、元気だったか? ああ、死んでたな」
墓石に積もった雪を払いのけ、持ってきた花束を墓石の前に添える。
そして、屈んで立膝をつくと、眠るビショップに向かって話し掛けた。
「お前が死んで2年。やっとゲームが出来たよ」
そう。この2年間で、俺とインフィニティ、ワイルドキャットの皆、そしてケビン達を含めた全員が協力して1つのゲームを作りあげた。
ゲームのジャンルは、SFとファンタジーが混ざったMMO。
敵はファンタジーに登場するようなモンスターだけど、プレイヤー側は超能力、銃、接近戦闘だってある。と言うか、接近戦闘が一番強い。
最初の内は普通のMMORPGにしたけど、それだけだと飽きるから、レベルがカンストしたプレイヤー用に
このゲームの最大の売りは、インフィニティによるゲームディレクターAI。
ゲームディレクターAIは、プレイヤーレベルに合わせてシナリオ込みでクエストを自動で生成。
クエストにNPCを参加させたりするし、プレイヤーがレベルよりもプレイスキルが高ければ、敵の強さを調整して報酬を上げる。
逆に、クエスト中にサボっているプレイヤーが居れば、経験値を減らす。
そして、RvRだと数のバランス調整などを行い、プレイヤーがずっと楽しめるように作った。
3カ月前に始まったオープンベーターテストの評価は高く、噂だと正規版のリリースを待つユーザーが世界中に居るらしい。
「『ビショップ・ザ・ゲーム』。タイトルにお前の名前を付けてやったよ。恥ずかしいだろ、ザマァ」
「皆、元気だよ。ケビンを含めて全員性格破綻者だ。ちなみに、お前の作ったインフィニティもその内の1人だ」
「これでお前の夢は全部叶えたのかな? 人の遺志を継ぐってのは面倒くせえな。まあ、俺はこっちで元気でやってるよ。お前も天国で元気でいろよ」
ビショップに言いたい事を言って立ち上がる。その時、雲の間から一条の光が差して俺と墓石が輝いた。
突然の事に驚くが、ビショップが天国で見ているのだろうと思って笑みを浮かべた。
そして、報告も済ませたし帰ろうかと背を向ける。
「ありがとう」
突然聞こえた声に慌てて振り返ると、墓石の上で光に包まれたビショップの幻影が笑っていた。
「……あ」
自然と涙が流れて、ビショップを掴もうと手を伸ばす。
だけど、俺の腕はビショップを掴む事なく、彼は微笑みながら光に包まれて消えていった。
「……また来るよ」
伸ばした手で涙を腕で拭うと、墓石に別れを告げて霊園を後にした。
「んーー。さて、帰るか!」
大きく伸びをして、気持ちを切り替える。
『ビショップ・ザ・ゲーム』の正規リリースは明日の予定。
そして、既にワイルドキャットの皆とはゲームで遊ぶ約束をしていた。
「やるとしたら接近攻撃型か? だけど、RvRだと弱いんだよなぁ……」
ゲームを作ったけど、やっぱり俺達はゲーマーだ。
面白いゲームがあれば、それに飛びつき皆でワイワイ遊んで馬鹿になる。
それは、子供でも、大人になっても変わらない。
だって、それが人生というゲームを楽しむという事だから。
FIN
『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達、過疎ゲー、ゲーマーズ~ 水野 藍雷 @kanbutsuya
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