第46話 『ワイルドキャット・カンパニー』 ~俺達ゲーマーズ~ その1

「これで契約完了だね。会社は僕が経営管理するから任せて」

「会社?」


 会社と言われても何の事だか理解できず首を傾げる。


「今回のゲームクリアの報酬と、すぴねこ君が手に入れた報酬を運転資金に会社を作るんだ。そっちの方が税金が掛からないからね。皆には給料と言う形で分割して支払うよ。それで先にアメリカに行く人達は、ケビン達の会社に出向させる予定。そこでゲーム開発について勉強してもらうね」

「なるほど」

「そうそう。ケビンがすぴねこ君に話があるらしいから、今から呼ぶよ」


 インフィニティが右手を鳴らすと、俺の目の前にケビンが現れた。


「よう、すぴねこ。ゲームクリアおめでとう」

「ケビン、体は無事なのか!?」


 心配する俺に向かって、ケビンが笑い返した。


「おう。あんな豆粒みてえな弾なんざ、腹の肉で食い止めたぜ。ただ、生活習慣病が引っかかって入院が長引いているだけだ」

「腹の肉じゃなくてぜい肉だろ。これを機に少し痩せろ。マカロニチーズを食わずにサラダ食え」

「パンなら食ってるぞ」

「俺が知る限り、パンはサラダじゃねえ」


 だけど、アメリカの小麦粉はビタミンを添加しているから、ケビンの言っている事も間違ってはいない。


「しかし、アイツビショップは……。俺の知らねえ間に、こんな物を作っていたとはなぁ」

「ケビンはコイツの事を心配しないのか?」


 俺がケビンの隣で立っているインフィニティを指さすと、ケビンが肩を竦めた。


「何の心配もいらねえ。アイツと似ていて、きっといい子に決まってる」


 そう言ってケビンがインフィニティの頭を撫でると、インフィニティは照れくさそうに笑っていた。

 ケビンも笑い返すが、その笑顔はビショップを思い出したのか、どこか寂しそうだった。


「まあ、コイツの事は任せろ。それと、お前の仲間もな。丁度、人手不足で誰の手も借りたいところだったから、こちらとしても助かる」

「大丈夫、任せて。僕は管理AIとして作られたからね。僕1人で全てのシステムを管理するよ」

「はははっ。そいつは頼もしいな」

「あっ、そうだ。すぴねこ君。会社を作るにあたって名前はどうする?」


 インフィニティの質問に、片方の口角を尖らせ笑みを浮かべる。


「そんなの『ワイルドキャット・カンパニー』に決まってる」

「あはははっ。きっとそうだと思った」


 会社名を聞いてインフィニティは笑っていたが、その笑みが意地悪を思いついた様な感じに変わった。


「それじゃ長くなったけど、そろそろ皆を兵士サロンに戻すね。という事で頑張って」

「は? 何を頑張るんだ?」


 インフィニティはその質問に答えず右手を鳴らと、俺だけではなくボス達も一緒に兵士サロンのミッションゲートへワープしていた。

 そして、俺達の目の前にはロックを始めとして、ミカエル、ロッド、それ以外にも大勢のプレイヤーが待ち構えていた。


『おめでとう!!』


 その後、俺達は全員から祝福という名の暴力によって、揉みくちゃにされた。







 AAW2をクリアして2年の月日が流れた。

 現在、大学を卒業した俺は、車に乗ってモンタナ州のハイウェイを走っていた。


 車を運転しながら、ゲームをクリアしてからの2年間を思い出す。

 本当に色々な出来事があったけど、まずはゲームをクリアした後の事から話そう。


 インフィニティに飛ばされて大勢のプレイヤーに揉みくちゃにされた後、俺達は世界中の雑誌やらネットニュースの記者から取材を受けるハメになった。

 話を聞けば、俺達のプレイは兵士サロンだけなく、あらゆる動画サイトにライブ中継されていて、それがSNSで話題となり拡散されると、テレビがニュースにして全世界に流していたらしい。SNSでワールドトレンド1位とか、バズったレベルじゃねえ。

 実際にSNSでイラストをUPしていたドラは、フォロワーが一気に増えて知名度が上がり一躍有名になっていた。

 ついでに身バレして、ドラの異常な性格が話題になっていた。バーカ、バーカ。


 ロックからは、プロにならないかと彼の所属チームに勧誘された。

 その誘いに少し惹かれたけど、時差で生活時間が違う事と、大学に通っているという理由で断った。

 彼とは、時々AAW2のPvPで戦っている。

 結果は、チーム戦だと勝っているが、個人戦だと負けていた。やっぱりショットガンはPvPだと辛れぇ。


 ロッドとミカエルとは、相変わらずの関係だった。

 会えばケンカをして、会わなきゃ影口を言う。それでも絶縁しないのが不思議だと、インフィニティに笑われた。


 ちなみに、マッドは噂によるとAAW2から引退したらしい。

 その後の彼がどうなったかは知らない。

 だけど、大半のネットゲーマーは、自分の求めるゲームを探して、そのゲームに満足したら引退する。

 きっとマッドも安住の地となる新たなゲームを探し当てて、遊んでいるだろう。


 ゲームの管理を任されたインフィニティは、本人が言っていた通りにゲーム管理者として優秀な存在だった。

 今までデペロッパーの全員が交代でやっていたゲーム運営を全て引継ぐと、問い合わせ、バグ報告は当然の事ながら、詐欺行為や、ゲームを隠れ蓑にした麻薬売買。それら全てをマルチタスクで解決し、プレイヤーの間では神GMだと讃えられていた。


 そのインフィニティの正体だけど、全員で話し合った結果、彼の正体を隠すことにした。

 人間は未知なるものに対して恐怖心を生む。それは、生物として生きる本能だろう。

 これは、本人も仕方がないと納得していた。


 最後に、俺達がクリアしてから2週間後ぐらい後で、別のチームが全てのシークレットを見つけて、バグスの人工頭脳に挑んだ。

 そんな彼等を、インフィニティが嬉々としてボッコボコにする。巻き込まれたアンダーソンに合掌。

 だけど、インフィニティが彼等を瞬殺した結果、そのありえないラスボスの強さに、俺達の不正問題が再度浮上した。


 それに対して、デペロッパーの全員とインフィニティが証拠を見せてやると、俺達と人工頭脳との戦いの録画をネットにアップした。

 その結果、不正問題はなくなったが、その激しい戦闘を見たプレイヤー達から握手やサインを求められて大変だった。特に美人でおかまのねえさんが大変だった。






 クリア後の話はこれぐらいにして、次に俺がアメリカに行くまでの2年間の話をしよう。


 まずドラがすぐに結婚した。ドラの嫁よ、コイツで良いのか?

 2人の挙式はハワイで行われて、ワイルドキャットのメンバーは全員招待された。

 その時にミケ以外のメンバーと初めて会った。結婚式なのにオフ会の気分。


 デブでニキビツラのハゲと予想していたけど、現実のドラは普通の見た目の人間だった。まず、人間だった事に驚く。

 現実のドラを見た事がなく、挨拶をしようと式場で「新郎は何所ですか?」と本人に聞いた俺は悪くない。

 ドラの嫁の顔は認識障害で分からない。ミケが言うには、ドラにはもったいないほどの美人らしい。

 重要だからもう一度言うけど、ドラの嫁よ、本当にコイツで良いのか?


 その2人は現在、モンタナで暮らしている。

 ドラはキースリーとジョンの元で手伝いをしながら、俺とインフィニティが作るゲームのデザイン全般を担当していた。

 だけどさぁ……最近の彼のイラストを見ると、キースリーに影響されて変態性が垣間見えるんだよなぁ。







 次にボスとチビちゃんだけど、2人の間に子供が生まれた。

 生まれた子は女の子だったけど、俺の認識障害は赤ちゃんにも影響があるらしく、何が可愛いのか分からなかった。

 取り敢えず、ボスに似て可愛いと適当に言ったら、その場に居た全員からチビちゃんの方に似ていると言われて嘘がバレた。1/2の確率を外すかぁ……。


 そんなボスは、現実だとロン毛でやせ型の長身男性で、本当にハゲじゃなかった。詐欺だと思う。

 逆にチビちゃんはゲームキャラそのままで、身長が140センチしかなかった。


 この2人も今はモンタナに引っ越している。

 ボスはケビンにゲーム設計を学びなら、彼と一緒にAAW2の拡張パックを作成して、俺達がクリアしてから10ケ月後にリリースした。

 この拡張パックは新たな敵とシナリオが追加されていて、評論家とプレイヤーの間からの評価は高く、下火になりかけたAAW2を再び人気にしていた。

 一方、チビちゃんは子育てをしながら、その拡張パックのデバッカーとして働く。

 ちなみに、彼女は背が小さい事から、近所の主婦達に子供の姉だと勘違いされていて困っているらしい。

 そんな2人は相変わらず夫婦円満で、全員が呆れるぐらい仲が良かった。


 そして、ボスは俺が作っているゲームのプロデューサー。

 チビちゃんはボスのアシスタントとして働いている。







 次はねえさんだけど……彼女の人生は他人と違う生き方だと思う。

 まず、ねえさんは結婚した。相手は女性・・でフランス系カナダ人。見た目は同性婚だけど、一応男女だから普通婚。

 そして、その奥さんが妊娠した。相手はもちろん、ねえさん。だってまだ玉と竿が付いてるし。

 だけど、ねえさんは子供が生まれると、自分の股間の玉と竿を去勢した。

 俺がねえさんの人生を理解するには難易度が高い。


 何でそんな回りくどい去勢をしたのかを聞いたら、自分の子供が欲しかったと言っていた。

 だからねえさんは、同性愛者の女性を探して、子供を作ってから去勢をするという、計画的犯行、いや、家族計画をしたらしい。

 それを聞いた時、ねえさんはオカマ界で最高のチャレンジャーだと思った。

 よくそんな奇特な女性を見つけたねと言ったら、出会い系サイトで見つけたらしい。何か色々と生き方がスゲェ。


 そんなねえさんは、元々建築家でCADも使える事から、ダニエルの元で働いていた。

 ダニエルは最初にねえさんを見た時、彼女の美貌に惚れて告白したが、その直ぐ後にオカマと知って人間不信に陥った。

 ダニエルにねえさんの性別を言わなかった俺は悪くない。

 その魔性の女のねえさんは、俺のゲームで建築物とダンジョン作成を担当していた。

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