第13話 おまけのワンモアプレイ

 かぎっこちゃんが無事に退院してから半年後。

 とある全年齢向けのFPSゲームの地方予選大会にアタシとかぎっこちゃんは、牛脂さん、ラードさん、KCさんとともに参加していた。

 出身はバラバラだけど、リーダーの住所に合わせて地方大会に参加できると聞いて、アタシが呼びかけたのだ。

 この大会はゲームの大会には珍しく屋内ではなく屋外の開催で様々な屋台も並ぶちょっとしたイベントになっていた。家族連れのラードさんや牛脂さんが参加するにもうってつけだ。

 かぎっこちゃんの両親は来れなかったけど、アタシ達が付き添う、と話したら快く送り出してくれた。


「うう、補欠ってことで参加してるけど、体のいいアッシーだよね。これ」


 KCさんがぼやくと、その肩をラードさんが叩く。


「あきらめろ、KC。事前にチーム内で1対1の総当たりやったら、お前が一番成績悪かったやないか。んで、お前出たいのってモテたいためなんだろ? 逆ナンされるかもって」


 うりうり、とラードさんがKCさんの頬をつつく。


「すいません、KCさん。万が一わたしが参加できなくなる可能性があったので、心配で。棄権したら皆さんに迷惑かかってしまうから……」


 かぎっこちゃんが申し訳なさそうに話す。すると、ラードさんと牛脂さんの目がギラン、と光った。


「KC、お前かぎっこちゃんを困らすとはいい度胸してんな?」

「もとはと言えば、お前他のチームに混ざるかもしれんから、こっちに参加できないって言ってたのをチーム解散になったから、慌ててこっちに合流したんだろうが」


 ラードさんと牛脂さんからすごまれて、ひいいいい、とKCさんが縮みあがる。

 ここは、穏便にすますのもリーダーの務めだ。よし、ここはひとつ。


「せっかくの大会のわけだし、よかったら、次の試合KCさん出る?」

「え、かっちゃん、いいの?」

「うん、代わりにみんなの分屋台覗いてくるよ。KCさんの奢りで」

「お、いいな。それなら許す」

「よし、それなら姐御いくらでも食うから制覇するつもりで買ってきてくれ」

「牛脂さん、ラードさん、大学生の貯金、いくらだと思ってんですかあ! 勘弁してください!」


 そんなやり取りをよそに、ふう、とため息をかぎっこちゃんがつく。


「あの、それは流石にKCさんかわいそうなので、次かつさんが休んだら、次わたしが休んだところに出てもらう、じゃダメでしょうか? なるべく皆さんで楽しみたいです」

「うううう、かぎっこちゃんマジ天使すぎる」


 KCさんが感動して袖で顔をごしごしこする。あ、まずい。

 ぽたり、ぽたり、と赤い雫が公園の芝生の緑を汚していく。


「KCさん出てる、鼻血出てる、ふいて!」

「またかKC!」

「あんだけ軟膏塗っとけ言ったのに」


 慌てるアタシ達をよそにかぎっこちゃんが可笑しそうに微笑む。


『間もなく予選2回戦をはじめます。出場選手の方は所定の場所に集合してください』


 アナウンスが響いて全員の表情が変わる。


「この調子じゃKCさん出れないから、1回戦とおなじ面子だね」

「ううう」

「えーと、次の3回戦の時には、交代しましょうKCさん」


 悲しそうなKCさんをかぎっこちゃんが慰める。ありがとう、と鼻の詰まった声でKCさんが感謝する。感謝するのは構わないがかぎっこちゃんに近づこうとしたのを見て頭を掴んでアタシが止めた。

 せめて、その鼻血を始末してからにしてくれ、変態と誤解されるから。


「じゃあ、思いっきり遊びに行こう」

「はーい!」

「「うぇーい!」」


 小学生の元気な返事といい年したおっさんのパリピな声がこだまする。

 空は快晴、遊ぶにはもってこいの日和だった。

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とおい近所のおねーさん 螢音 芳 @kene-kao

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