世継ぎは大事

 今、魔族領には一つの噂が流れている。

 東の災厄、雷を操るモノ、神の怒り……。


 この魔族領にはこれまでも多くの支配者が現れたが、統一出来たのは前魔王が最初で最後。

 その忘れ形見であったヘルですら、一部の地域を支配していただけの群雄割拠の状態だった。


 しかしついに魔王を超えるモノ――魔帝を自称し魔族領を次々と支配していたハーゲンすら敗北を認める存在が現れる。


 雷帝――シズル・イシュタール。


 東の地からやってきたこの人間は今、魔族たちにとって恐るべき存在として刻まれていた。


「という噂ですねー」


 マールからの話を聞いて苦笑する。

 広い魔族領の一角をイシュタール領として運営しているシズルは、さらに西に流れているその話に当然だと思ったからだ。

 

「シズル様のおかげでこんなに発展してるのに」

「まあ侵略者だからね、俺って」

「そうなんですけどねぇ……」


 元々ほとんど荒野だったこの土地に街を作り、人々を呼び、そして同時に魔族すら迎え入れた。

 その結果、このイシュタール領とフォルブレイズ領の国境に存在するこの街は、歴史上初めて人と魔族が共存する場所となった。


「本当に侵略者だったら、みんなあんな風に笑えませんよ」

「まあ俺のおかげかって言われたらさ、そんなことはない気もするけど」

「でもみんな、シズル様の知恵をお借りしたって言ってますし」


 シズルがやったことはただ、降伏した魔族の中で希望者がいれば受け入れる、ということだけ。

 街の発展はやってきた技術者や職人たち、そして多くの物資を持って来た商人のおかげである。


「シズル様って、昔から新しいのを考えるの得意ですよね」

「ははは……」


 曖昧に笑うのは、シズルの知恵というのが現代日本の知識を使ったことだからだ。

 とはいえ、昔ルキナを喜ばせるためにお菓子を作ったのとは違って、シズルの知識では限界がある。


 結局、曖昧なことを言ってそれを形にした職人たちが凄かった、ということだと本人は思っていた。


「まあおかげでみんなを苦労させなくて済むのはありがたいね」

「……シズル様」

「ん?」


 マールが真剣な表情で足を止めるので、何事かと首を傾げる。


「この街は大陸の未来を進んでいます」

「大げさだね」

「いえ、大げさではありません。シズル様は王国にとってもはや王族にも勝る価値があるんです」


 それはかつて子供の頃からずっと言われてきたこと。

 そのときは世界で唯一、六属性に属さない新しい魔術の使い手としてだった。

 だが今は、自分のやってきたことを認めてくれた言葉。


 それは、シズルにとって自らの行動を認められたように思え、嬉しいことだった。


「だから早く子作りをしましょう」

「……ん?」

「ルキナ様、それにユースティア様との子供ですよ。シズル様とお二人の赤ちゃんなら、可愛いに決まってますし抱っこしたい! あと世継ぎは大事です」

「……最後のがおまけみたいに聞こえたけど?」

「あははー、気のせいですよー」


 笑いながら誤魔化すが、長年一緒にいたのだから本音ははっきりわかる。

 どうも話の流れがおかしいと思い、これ以上追求される前にシズルは屋敷まで歩くことにした。




 そうして視察を終え、二人は屋敷に戻る。


「それじゃあシズル様、お楽しみにー」

「ん? 何の話?」


 聞いても答えてくれず、ただニヤニヤと笑うだけ。

 これはまたなにか悪戯でもしたな、と分かった。


「……あとでお仕置きだね」

「ふふふ、そんなことを言ってられるのも今のうちですからね」


 妙に自信満々だ。

 こういうときは本当に面倒なことが起きるのだが、経験上口は絶対に割らない。


「ではではー」


 マールは使用人としての仕事があるため離れ、仕方ないと一人で部屋に戻ると――。


「……」

「……えと、これは、その……」

「違うんだ」


 なぜかベッドで横になる美女二人。

 シズルの妻であるルキナとユースティアだ。


 ――これは、見ちゃいけないものを見てしまったんじゃ……?


 まだ昼間の太陽も昇っている時間だというのに、ネグリジェの二人がベッドで並んでいる姿は、とても艶めかしい。

 ルキナは黒、ユースティアは蒼っぽい銀色のそれらは正反対であると同時にとても目を引くようになっていて、視線を逸らすことが出来ないまま凝視してしまう。


 とはいえ、このままで良いはずもなく、気力を振り絞って振り返る。

 

「とりあえず、後でまた来るね……」


 扉に手をかけると、ガチャガチャとまるで壊れてしまったかのように動かない。

  

「……これって」


 先ほどのマールの笑いを思い出す。

 分かってて嵌めたな、と思ったら、背後から二人が抱きついてきた。


「シズル様、最近働き過ぎなので……」

「私たちが、その……元気に……」

「いや、あのさ。まだ太陽が明るいし……」


 すでに二人とは結婚をして、妻となっている。

 当然ながらそういう行為も終わらせているが、だからと言ってこんな時間からやろうなんて考えたこともなかった。


「それじゃあ、思い出話でもしながら……」

「ああ、時間はたくさんあるからな」


 思わず葛藤から天井を仰ぐ。

 するとそこには何故かヴリトラがいて、見つかったとわかるとそのまま消えてしまった。


「……」


 そして二人を見ると、潤んだ瞳。

 普段は雪のように白い肌も紅潮し、少し緊張しているのがわかる。


 このまま、恥をかかせるわけにはいかないな。

 そう思ったシズルは、一度首を横に振る。


 そんな言い訳は必要ない。

 ただ今、この美しく愛らしい少女たちを自分の腕の中に入れてしまいたいという、男の本能に身を任せよう。


「色々と話そっか」

「はい」

「ああ」


 シズルは二人を一緒に抱きしめると、そのままベッドに歩いて行った。


 その間、シズルの部屋には誰一人近寄らなかったという。


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