U探偵めい!!

斉賀 朗数

U探偵めい!!

「こちらが、〈めい〉探偵さんです」

「こんな娘が、本当に名探偵だと? もっとましな冗談を言うんだな!」

 不信感と侮蔑を露わに、栗見成彦くりみなるひこは、警察が紹介した目の前の少女を睨みつける。栗見は二メートル以上ある身長と百キロを超える体重を有する巨躯である。そんな男に睨みつけられれば、一般的な成人男性でさえも萎縮してしまいそうなのに、少女は逆に栗見を睨みつけ返した。

 そして腰に手を当て、口を開いた。

「名探偵じゃないってば!! 私は、めいって名前の、ただの探偵だから!!」

 栗見だけではなく、その場にいた人々のほとんどが、ポカンと口を開けた。わざわざ自分のことを【ただの探偵】なんて言ってしまう探偵が、事件の現場に来たところでなんの役に立つのだろう? という本音がフキダシのようになって、人々の上に漂っているような空気で部屋がいっぱいになる。

「ただの探偵って言っても、一応探偵の端くれではあるから事件くらいささっと片付けてあげるけどね。犯人は、あなた。栗見成彦さんですね」

「な、なんだって……それは本当なのか?」

 只野藻武雄ただのもぶおは、疑惑の目を栗見とめいに向ける。どちらを信じるべきか、悩んでいるのだろう。というか、今まで全然会話に入ってこなかったくせに、突然話に入り込んでくるあたり図々しいタイプのモブなのは言うまでもない。

「そ、そんなわけないだろう!! 探偵気取りの失礼な娘め!! まず、証拠がないだろう証拠が!!」

 激昂する栗見を横目にめいは得意気な表情になると人差し指をピンと立てた。

「なーに、簡単なことですよ」そして解説を始めた。

「この部屋には、誰も入れなかった。みなさんは、そう仰っていた。それは何故ですか?」

「だってぇ……」甲斐節子かいせつこは、人差し指を顎に当て、首をかしげ、あざとい仕草と声で語り出す。それを見てめいは正直イラッとしている。

「この部屋の壁ってぇ、すっご〜く高いんですよぉ? こんな壁ぇ、わたしみたいなぁ、非力な女の子だとぉ、越えれないしぃ」

「ああ、うっとうしい喋り方!! さっさと喋ってくださいよ!! そんなんじゃ、明日の朝五時くらいまでかかりますよ!! 始発電車が走り出す時間ですよ!!」

「イイエ、始発電車ハ東行とうこうガ五時二十分発、西行さいこうニ関シテハ五時三十八分マデ、ナイデスヨー?」

「だいたいでいいから!! 本当オタクの人ってめんどくさい!!」

 ナイフのように鋭い視線の刃をデーン・シャースキーに投げ飛ばす。

「もういいです。私一人で勝手に解説して、勝手に解決しちゃいますから!! まずこの部屋は天井がありません。雨が降ったらべっちゃべちゃです。普段どうやって生活してるのかは、知りません。興味もありません。興味を持っちゃうと色々物語の矛盾が浮き彫りになるので、そういう世界なんですもんね、ここは。それでですね、この壁はだいたい二十メートルくらいあります。それにこの部屋には扉は一つだけ、窓はないし、隠された抜け道もありません。ただ扉には二十個の南京錠が内側からかけられていて、とても外から開けられる状況ではありませんでした。だから壁をドリルで開けたという点に間違いはないですね? 土理留どりるさん」

「間違いないドリ!」

 手に持ったドリルをブインブインと唸らせながら答えた。

「それで、どうして私が犯人になるんだ!」

「落ち着いてくださいって!! まだ子どもが解説してる途中でしょうが!!」

 栗見や只野といった一世代くらい前の人達が、どこかで聞いたことがあるようなセリフだと思ったが、わざわざ口にはしなかった。めいの血気迫る表情というよりは、普通の推理小説のようにいかない展開にイライラしている表情の癖の強さに口を挟むべきではないと察したのだろう。めいは、イライラすると手のひらを噛む癖があって、その噛み方があまりにも気持ち悪いのでもうどうとでもなれという気持ちが湧いたのだ。

「あー、もうめんどくさい!! 簡単にいうと、そのごつい体で被害者の比嘉ひがドクターを、ぽーいっと部屋の中に放り込んだんでしょ!! 動機は、きっとあれですよ。嘘の診断書を書いてくれっていうのを断られたから。栗見さんは、オリンピックの選手に選ばれるような方ですけど、もう歳も歳だし、キツい練習がつらかったんでしょう。きっと。南京錠がかかっていたのは、放り込まれた比嘉ドクターが、また栗見さんに放り投げられては、たまったもんじゃないと思って部屋に侵入されるのを恐れたのでしょう。ざっとこんな感じですね!! 簡単な事件ですよ、こんなの。かわいそうに、部屋の外から、部屋の中へ、Uターンするみたいに投げ飛ばされて、かわいそうな比嘉ドクター。っていうか、栗見成彦って、名前からして明らかに犯人でしょ。だってクリミナルですよ、クリミナル」

「な、そんなこと、あるわけないだろ!!」

 必死に自分は犯人ではないと騒ぐが、警察はそんな栗見の言葉を聞くこともなく、パトカーへと連行していく。

 満足そうな顔のめいは、後ろを振り返ることもなく自分の原付に乗り込む。ブロロロロと音を立て、最初の交差点でUターンをすると自宅のある郊外へと法定速度内で帰っていく。

「あっ!」

 めいは、叫んだ。

 そう。めいはいつも、そうなのだ。

「犯人、栗見さんじゃないや……土理留さんだ。だって、比嘉ドクターは、体に思いっきり穴空いてたし」

 原付に乗って自宅に帰ろうとする時、まさにUターンを決めると本当の犯人に辿り着くのだ。

「まっ、いっか」

 しかし、その時にはもう報酬ももらっているし、どうでもいい気持ちになってしまう。

 それがU探偵たーんていめい、なのだ。

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U探偵めい!! 斉賀 朗数 @mmatatabii

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