地獄と現世をUターン!
うめもも さくら
Uターン、帰省ラッシュにご用心!
「舌を
自分を軽々と抱えあげる強くしなやかな
強く優しく降り注がれる男前な言葉と人生で初めてされたお姫様抱っこというものに
そう、心の底から惚れてしまいそうになる。
もしこれが目の前の美しい者が男で自分が女なら。
人生初のお姫様抱っこは申し訳なさと気恥ずかしさと情けなさに心が潰れてしまいそうだった。
どうしてこんなことになったのかと言えばお姫様抱っこをされている今から約1時間ほど前。
オレの腕は誰かの腕と
「お腹すいたー。まだお家着かないのー?」
「待ってて家に帰ったらきっとごちそうがあるからね」
「お兄さん
「おいっ!押してくんじゃねえよ!!」
「あっ!?俺じゃねえよ!ふざけんな!」
という声が聞こえてきて動くこともままならないこの状況で
ここにいるみんなが望むことは同じなんだ。
ただ早く家に帰りたい、家族に会いたい。
早く帰りたいのはみんなと一緒だがオレにはここにいるみんなと少し違う。
自分には残り
ここで待っている間にそれは
頼む!早く進んでくれ!オレを早く帰してくれ!
まず、1つ言わせて欲しい。
オレは生きている。
そして地獄に落ちるほどの
そんなオレがなぜ地獄にいるのかと言えばそれはただの事故だった。
仕事帰りに少し酒でも飲もうと
まさか居酒屋の戸が地獄へと
あとから聞けば地獄の門番がお腹を悪くしていたらしく門を閉めるのも忘れて慌ててトイレに駆け込んでいたらしい。
その僅か10分くらいの間に事故で門がどこかに繋がってしまいそれがオレの立ち寄った居酒屋だったというわけだ。
迷いこんだオレを死者だと思い優しく
案内された先で
そこではじめて自分の置かれた異常な状況にきづいた。
周りにいた大勢の人たちに混ざって
マンガなどでは鬼と呼ばれるような者。
そして自分と同じ人間も多く集められていた。
逃げようとする人、泣き崩れている人、自分と同じく何が起きているのか理解できていない人。
鬼たちの言葉に耳を
ここは地獄だ。
(え?オレ、死んだの?いつ?なんで?普通に歩いて居酒屋に行っただけだったんだけど)
頭の中が混乱して
地獄でも
そしてほどなくして順番がきたと呼ばれ行ってみるとそこにはたくさんの鬼と体も顔も真っ赤な大男がそこにいた。
その大男はあたりがつく。
おそらくマンガなどで地獄といえば必ずといっていいほど登場する地獄というものに詳しくなくても誰でも名前は知っている、嘘をつくと舌を抜くと言われている人。
「
その場にいた鬼たちがわらわらと閻魔大王のもとに集まって慌ただしくあれこれ言っている。
聞いていると
そして門番が呼ばれ目の前にいる閻魔大王をはじめとした見るからに偉い立場にいそうな鬼たちが
「どうやらこちらの
「オレはこのまま死んでしまうんでしょうか?」
そうおずおずとオレが聞くと閻魔大王は一瞬驚いたように目を見開くとすぐに
「まさか!大丈夫、すぐに君を現世に戻すように手配をしよう。今日中に戻れば何事もなく帰れるだろう」
その言葉を聞き、心底ほっとしたオレは閻魔大王の
「この馬に乗っているだけでいいですよ。道はこの子が知っているしなにより目的地まで一本道ですから。
正直馬になんて乗ったことなかったので助かった。
安心したオレに側近の鬼は優しい笑みを浮かべてひょいとオレを持ち上げて馬に乗せてくれる。
地獄に車あるんだとかこの鬼、細身なのに力あるなとか思う。
はじめて足を踏み入れた地獄という場所は自分が思い浮かべる恐ろしくおどろおどろしい地獄とは違って穏やかで優しい鬼ばかりの普通の場所だった。
その事にどこか安心感と居心地のよさを感じた。
もう当分来れないし、そう簡単に来てはいけない場所だとわかっている。
だからこそ離れがたい気持ちを抑え僅かな寂しさを抱きながら別れを告げる。
「いろいろとお世話になりました。なかなかできない経験をさせていただきありがとうございました。……いつかまたお世話になる時はまたよろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げると彼らは少し驚いてから
「
「そなたがまた此処に訪れる日がずっとずっと先であるように、またそなたの現世での生活が幸せなものであるようにこの地にて心から願っている」
閻魔大王とその側近たちの優しい笑顔と声に見送られながらその場を後にした。
今体験した不思議な出来事に寂しさと興奮を抑えるように空を見上げた。
何事もなく帰れるはずだった。
もし今日がお
お盆、それは死者が現世に帰ることのできる行事。
ご先祖様が帰ってくるということで現世でもお盆の帰省ラッシュは毎年起こる。
まさか地獄で馬に乗った誰かのご先祖様たちの帰省ラッシュに巻き込まれ、すし詰め状態になるなんて誰にも予想できなかったんだ。
「おいっ!押してくんじゃねえよ!!」
「あっ!?俺じゃねえよ!ふざけんな!」
どこかのご先祖様、
「お兄さん歳はいくつ?うちには可愛い孫がいてねぇ……」
この話もう18回目。とはいえ
「お腹すいたー。まだお家着かないのー?」
「もう少し待って、家に帰ったらきっとごちそうがあるからね」
お母さん大変そうだな。
あんなにちいさい子供もいるのか。
ここにいる人たちはただの幽霊やオバケじゃない。
誰かのご先祖様で誰かの家族なんだ。
そう思うと当然に長蛇の列でも
ただ、気ばかりが焦ってしまう。
「これ今日中に帰れないんじゃ……」
そう焦ったところで
「おまえが迷いこんだ人間だな?」
突然後ろから声をかけられる。
自分のことを言っているのは明白だったので慌てて振り返るとそこには美しい着物に身をつつみ長い髪を風に
「はい、えっと……あなたは」
「私は
彼女は
「これでは今日中に間に合わんだろう」
そう言うとオレの両脇と
そして今に至る。
「舌を噛まないように気をつけておけよ!なに、大丈夫だ、何も心配はいらない。行くぞ!」
そしてオレをお姫様抱っこしたまま馬の上を
美しい彼女に抱き抱えられ、彼女の胸元の近さに顔を赤らめながら彼女に身を
彼女はオレに
獄卒とは地獄のサラリーマンのような存在であることや地獄にも
事故でここにきて帰省ラッシュに巻き込まれて大変だと思うのに現世にUターンしてしまうことが、帰ることが寂しく思ってしまう。
今自分が暮らしている現世の方がよっぽど自分が想像する地獄に近い気さえした。
でも戻らないわけにはいかない。
仕事も家族も友人も
「もし今日中に間に合わなかったらオレどうなるんですか?」
オレの突然の質問に少しきょとんとしてからオレの目をしっかり見て笑った。
「あぁ、そんなに怯えなくとも大丈夫だ!今日中に帰れなくても死なない!閻魔大王さまにいろいろと
閻魔大王はオレが早く帰りたいと思っていると思い今日中にだって帰れるという意味で言ったようだ。
その言葉を聞きオレはほっとして、それならもう少し優しい鬼たちと一緒にいてもいいかもと思った。
この天国みたいな地獄を、彼女の話してくれた景色やお店を楽しみたいと思ったのは内緒だ。
「もう一度Uターンするか?」
彼女はオレの心を読み取ったように仏のように優しく鬼のように
橙色の空に月がかかり、木々の
地獄と現世をUターン! うめもも さくら @716sakura87
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