Uターンしても戻らない

雅島貢@107kg

第1話

「彼は出発地点からまっすぐ進み、ある地点でUターンをしたが、出発地点に戻ってくることは無かった。一体なぜ?」

「そこが南極だったから!」

「いいえ。……え、たぶん。南極だったとしたらなんなんだよ」

「地球っていうのは球って書いているくらいだから球体なわけだよね。歩いている道だけを取り出すと、これは円の一部ということになる。その円の一部を切り取ると、ひろーい意味ではUになるじゃんか」

「それ別に南極じゃあなくても成立するだろ。地球上に"球"でない点ってないんだから。いいえです」

「あっそうか。えー、Uターンはしたけれど、出発地点に戻ってこなかったのは、途中で立ち止まったから?」

「いいえ」

「ま、そりゃあそうだよな。そんなことではない……うーん。わかんね。彼は人間?」

「はい」

「彼は男性?」

「まあ、はい」

「男性じゃなくても良い」

「はい」

「大人?」

「はい」

「成立しない年齢はある?」

「うーん、まあはい」

「子供だとダメ」

「うーん、部分的には、はい」

「部分的に?」

「部分的に」

「未成年はダメ?」

「いいえ」

「あまりにも若すぎるとダメ?」

「まあ、はい」

「あまりにも年を取っていると?」

「ダメ……ではないが、難しいかも」

「Uターンというのは、いわゆるUターンで合ってる?」

「"いわゆるUターン"をどう定義するかにもよる」

「えー……Uターンというのは、180°転回して、移動することを意味している?」

「はい」

「え、はい?」

「はい」

「帰省とか比喩ではなく?」

「帰省とか比喩ではありません」

「マジかー。えーっと、車?」

「いいえ。未成年OKだよ」

「あ、そうか。徒歩?」

「いいえ」

「いいえ?」

「いいえ」

「えー、Uターンは移動のことを指す?」

「はい。さっきも言ったろ」

「あ、このUターンは、……えーっとなんて聞けばいいのかな。あのー、高度。垂直方向のUターン?」

「あー。なるほどね。いいえ」

「ええー。いいえかよ!」

「いやでもまあ近いんじゃあないかな? どう考えたわけ?」

「えーっと、ホラ、ロケットを垂直に打ち上げたけど、落下してきたときには地球がちょっと自転しているから出発点には戻ってこないとか」

「あーまあ……発想としては近いような気がしないでもないが……それ未成年多分OKじゃあなくないか?」

「あっそうか。うーん、あ、俺はやったことがある?」

「えー。知らないけど、無くはないんじゃあないかなあ。やっててもおかしくはない」

「やっててもおかしくはない。確実にやったかやってないかは言えない」

「そうね。聞いたことはないし、直接見たこともない」

「えー。このUターンは陸上で行われた?」

「いい……え。陸の上を進んではいません」

「あーなるほど、そういうことね。当てていい?」

「はい」

「彼は沖に向かって海を泳いでいて、ある地点で180°進行方向を変えて浜に向かった。で、彼の主観としてはまっすぐ泳いでまっすぐ転回したのだが、波の影響を受けるので、戻ってきたときには出発地点でないところに着いたのである!!」

「正解!」

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