夏、繰り返す、快感
斉賀 朗数
飛び散る、夏、祭りの裏
神を信じているわけではないけれど、神聖だったり厳かな雰囲気というのを感じる瞬間というのは確かにある。
神社にある石段のてっぺんには鳥居が設けられていて、そこをくぐり抜けると夜とは思えない明るさで目を細めた。
「めっちゃ明るいね」
横を見て、目を細めたのが僕だけではなかったのだと分かった。彼女は目を細めながら、せせこましくも賑やかな祭りを見て気分が高まっているようで、表情が少しにやけている。その気持ちは僕だって同じだ。
「これで何カ所目?」
「ここでちょうど五十カ所目になるね、ここで」
僕たちは、祭りが好きだ。人が多くていちいち僕たちのことなんて、誰も見ていやしない。それでもこの喧噪の中にいれば、わいわいとはしゃぐことができる。少し羽目だってはずせる。でもやはり僕たちに注目なんてしていない。この不思議な感覚の虜になった僕たちは、目につく祭りという祭りに馳せ参じることにした。
イカ焼き。たこ焼き。金魚すくい。射的。かき氷。リンゴ飴。ここには、食べ物だって娯楽だってある。
それに、少しだけ明るい道から外れてみて、暗闇に埋もれる社の裏手に回ったりすると。
「見つけた」
「やっぱり。どこの祭りでも、盛り上がっちゃう奴はいるもんだ」
神を奉った社の裏で、衣類を乱して、声を押し殺して、それでも漏れ出る声を必死に押さえ込もうと口に手を添えているが、それでも嬌声があがっている。男も息を荒げていて、二人は祭り囃子に合わせて動いて溺れて酔っている。
そうしてこの場を汚している。
「関心しないなあ」
「あなたもね」
そういわれて、口角が上がっているという事実に気付いてしまう。
そうなのだ。僕は、こういったところを汚しているという、この瞬間にこそ神聖だとか厳かだとかいう感覚を抱いてしまう。
神を信じたいのかもしれないと思ったこともある。でも別に神がどうのこうのというわけではない。
単純に汚されるという行為の先に、いわゆる神という存在の、それが強く発散されるような感覚に快感を覚えるのだ。
「僕たちも、ヤろうか」
「そうしよっ。ああ、やばいかも。想像しただけでぞくぞくする」
ズボンのベルトに手をかけると硬いものが当たる。彼女の手もまた、そこに触れる。
「疼いてない?」
「疼いてるね」
興奮を抑えきれずに、それを放り出す。
月の光が雲に遮られた暗闇の中で、祭り囃子と心臓の鼓動が同期していく。
スムーズに動くと、それを挿入する。
体の奥へと。
僕は、男へ。
彼女は、女へ。
硬く光るナイフを、祭り囃子の、音に合わせて、前へ後ろへ、前へ、後ろへ。
入れて出して、入れて、出して。
血は滴り、汗は飛び散り、声を荒げても、祭りという異空間では、みんながみんな他人なんて存在を意識しない。僕たちのことなんて誰も見ていない。当然、衣類が乱れて血を流したカップルのことだって誰も見ていない。
こうやって、僕たちは神聖だったり厳かというものを感じる快感を覚えてイク。
本当にいいな、祭りって。
最高なもんだな、祭りって。
夏、繰り返す、快感 斉賀 朗数 @mmatatabii
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