最後のカーニバル

ヒトデマン

御祭り

 "私"はとある研究者だ。未開の文明の人々について調査し、それをまとめ上げることを生業としている。


 ジャングルの奥深くで出会った現地住民と暮らし始めて、一年も経とうという頃、彼らの御祭りに参加させてもらうこととなった。


 彼らの生活は狩猟採集生活だ。農耕などは行わず、動物を狩ったり、野草などを集めて生活している。現地の動植物についてはある程度調べてきたが、彼らの知識は私のそれを遥かに上回っており、未開の人々だからと侮ることの愚かさを改めて思い知らされた。


 『今夜我々の神のための御祭りを行うんだ。あなたも是非参加してほしい』


 族長からそのように言われたのはその日の朝であった。彼らの生活についてより知るまたとない機会であり、断る理由は何一つなかった。


 私も、その御祭りの準備に参加する、たちは切った木でやぐらを立て、女たちは果実を集めてジュースにしたりしている。子供たちも飾り付けの花や綺麗な石を集めたりと、総動員で準備に取り掛かっている。


 私は情けないことに、やぐらを組み立てる際に足をくじいてしまい。女性らのジュース作りに回されてしまった。


 その時ふと、族長だけが一人黙々と刃物を作っていることに気がついた。黒曜石を砕いて平べったい槍のようなものを作っている。


 私が気になって尋ねてみると、族長は作業しながらこう答えた。


 『今夜、我々は神とともに、最高のお肉を食します。これはそのお肉を切り分けるために使われるのです』


 なるほど、儀式用のお肉を切り分けるために使うようだ。ならば一から刃物を作るのも納得である。


 ふと空をみるともう夕暮れとなっていた。子供たちが立ったやぐらに飾り付けを行なっている。今日は最高のお祭りとなるだろう。


 夜となり御祭りが始まった。大きな焚火がつけられ、動物の皮で作られた太鼓が鳴らされている。人々は太鼓の音にのりながら炎の周りを踊り回っていた。


 私はというと、なんとやぐらの上で族長の隣に座っていたのである。分不相応じゃないかと辺りをキョロキョロ見渡す私に族長が笑顔で話しかけてきた。


 『落ち着かれてください、あなたも今日の主役のようなものですから』


 そう言って族長はジュースを入れていた壺から一杯取り出すと私に渡してきた。謙遜と共にそれを飲み干す、するとそれは酒であることがわかった。よく見ると今中身をついだ壺は、今日ジュースを入れた壺より色あせている。


 なるほど、これは去年作ったものだ。一年かけて発酵させ果実酒とするのだろう。となると私が作ったものを飲むのはまた来年ということとなる。


 酒を飲んだせいか酔っ払い、陽気になってきた。ふと下を見ると、若い青年が族長の作った刃物を持って来ていることに気づく、周りの人々もようやくその時が来たかと大興奮だ。


 いよいよ最高のごちそうが振舞われる時がやってきたようだ。この一年近く人々と暮らしてきて、鳥や獣の肉はそれなりに食して来たが、彼らが最高のごちそうと言う食べ物はなんの肉だろうか、ここいらで恐れられる肉食動物の肉かもしれない。それとも滅多に見つからない珍しい動物の肉かもしれない、期待は膨らむばかりだ。


 『それでは!これより最高の肉を神と共に召し上がります!』


 族長の言葉とともに人々が歓喜に湧く。刃物を持った若者がやぐらに上り私の背後に立っている。なるほど、まず族長と、主役に選ばれたという私がその肉を食べさせてもらえるのだろう。


 なるほど最高のお祭りだ。今から来年のお祭りが待ち遠しくてたまらない。肉をつまみに、私が作った果実酒を飲めばどんなにいいだろうか、おっといけないいけない、酔いが回ったのか思考が飲兵衛になっている。


 ふと隣を見ると族長が神への祈りを口にしていた。族長だけでない、祭りの参加者全員だ。私も真似したいところだが酒に酔ってそれどころでない。ああ、それにしてもお肉はいつ振舞われるのだろうか、早く食べたいものだ。


 『神よ、この贄をあなたに捧げます』



 耳元で、若者が刃物を振るう音が聞こえた。

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