デストロイヤー転生、これぞ駆逐艦『娘』、最強伝説だ⁉【カクヨム四周年記念版】

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【四年に一度の清霜進水日記念】「……私は、提督に会うために、生まれたのかもしれないね♡」

 ──私こと駆逐艦『きよしも』が、第二次世界大戦も終盤に差しかかった皇紀2604年において、大日本帝国海軍ゆうぐも型の最終艦である19番艦として竣工された時、すでにこの国は壊滅状態にあった。




 それでも帝国海軍はいまだ勝利を諦めず、最後の希望の大和やまと型の超大型戦艦である『武蔵むさし』すらも投入して、本土防衛の鍵を握るフィリピンをめぐって、アメリカ軍との決戦『レイテ沖海戦』に挑み、私自身も憧れの武蔵さんの直衛として、2月29日の進水以来初めての、本格的大規模海戦に参加した。




 しかし、先の『マリアナ沖海戦』において、主力の航空機動部隊が惨敗してしまった帝国海軍は、制海権及び制空権を完全に失っており、私たちはある意味大艦隊で徒党を組んで、『丸裸』で大海原を航行しているようなもので、敵航空部隊からすれば『格好な的』に過ぎず、生き残りの虎の子の航空母艦を始めとして、名だたる戦艦や巡洋艦や駆逐艦のほとんどが、主戦場であるレイテ沖に到達する前に、敵艦の砲撃や敵航空隊の雷撃に一方的に見舞われて、虚しく撃破されていったのだ。




 ──もちろんそれは、敵軍にとって最大の攻撃目標である、武蔵さんにおいても同様であった。




『武蔵さん! しっかりしてください! コロン湾はすぐ目の前です、頑張ってください!』




『……清霜、私はもう、これまでだ。おまえは私の亡きあとも、御国のために──無辜の民草たちのために、闘い続けてくれ!』




『そんな、武蔵さん、諦めないでください! 武蔵さん! 武蔵さん! 武蔵さん! 武蔵さん! 武蔵さん! 武蔵さん! 武蔵さあ──ん!!!』




 私の絶叫が虚しく木霊する中、艦尾を敵機が舞い踊る天空に向けて轟沈していく、憧れの大戦艦。




 我が乗組員が中心となっての必死の救助活動が行われている間、私自身はただ、武蔵さんを呑み込んだ海面を、見守り続けることしかできなかった。




 ──『力』が、欲しい。




 大切な人を、本当に守るための、




 まさしく、武蔵さんに、勝るとも劣らない、




『大戦艦』としての、力を──




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「おい、きよしも、どうした、しっかりしろ!」




 ──はっ⁉




 身体を激しく揺さぶられつつ、大声をすぐ耳元で叫ばれることによって、ようやく私は、夢の世界からの目覚めを迎えた。




「……てい、とく?」


「どうしたんだ一体、ずっとうなされていたじゃないか?」


 いかにも心配そうな、己のあるじの青年の背後に見えているのは、まさしく『見知らぬ天井』であった。


 ……ああ、そうか。


 ここは、第二次世界大戦末期の太平洋戦線どころか、地球上のどの国でも無く、


 21世紀の日本におけるWeb小説等でお馴染みの、『異世界』とも呼ぶべき剣と魔法のファンタジーワールドなのであり、


 長い旅の途中でふと立ち寄った、港町の宿屋の、二人部屋の中であったのだ。




 ──おそらくは、懐かしい潮の香りが、古い記憶を呼び覚ましたのであろう。




「……別に、何でもありません。ご心配をおかけしました」


「何でも無いわけがないだろうが⁉ そんなに真っ青な顔をして、身体中が寝汗でびっしょりと濡れていて!」


 そのように、あたかも我がことにような怒り顔で、私へとまくし立てる、大陸有数の召喚術士にして錬金術師の青年。


 ──まったく。


 どうしてこの人は、いつもいつも、なんだろう。


 たかが『つくりもの』の軍艦擬人化少女に対して、これほどまでに親身になってしまうなんて、どこかおかしいんじゃないの?


 いい加減、不可解で非合理な言動は、慎んでください。




 ──このままじゃ、私のほうまで、『おかしく』なって、しまうじゃありませんか。




 ──『つくりもの』であるはずなのに、心の中で湧き上がってくる、このどこか奇妙な『感情』は、一体何なのでしょうか。




 そのように、とても平常ではあり得ない、支離滅裂な思考を誤魔化すようにして、私はできるだけ素っ気なく、答えを返した。


「……本当に、大したことはありませんよ。実は本日2月29日は、『あちらの世界』における駆逐艦としての私の、『進水日』──すなわち、私たち軍艦にとっての『誕生日』みたいなものですので、少々感傷的になっただけです」


「えっ、誕生日だって? 何で言わなかったんだ、めでたいことじゃないか!」


 その瞬間、


 なぜか彼の、いかにも何気ない一言が、


 私の心の古傷に、やけに鋭く突き刺さったのだ。




「──めでたくなんか、無い!」




「き、清霜⁉」




「わ、私は、大日本帝国海軍の最後の希望として生み出されながら、結局何の役にも立てなかった! 憧れの武蔵むさしさんのことも、為す術も無く見殺しにしてしまった! 何が、進水式だ! 私なんか、生まれてこなければ良かったんだ!」




 ──苦しい。


 ──どうして私は、最愛の提督アドミラルに向かって、こんな醜い言葉ばかりを、口にしているの?


 ──辛い。


 ──どうして兵器に過ぎない私に、『人間ヒトとしての感情』なんかを、与えたの?


 ──どうしてそんな、『残酷』なことを、平気でできるの?




 ──『大切な人を目の前で為す術も無く亡くした』記憶に、永遠に苛まれ続けなければならない地獄の苦しみが、生まれながらに心を有する本物の人間に、わかるとでも言うの⁉




 そのように、心の中で、これまでずっと抑え続けていた『本心』を、ぶちまけていると、




 ──目の前の青年が、今まで見せたことも無かった、哀しそうな表情となった。




 ……あ。


 いけない。


 彼を、失望させて、しまった。


 兵器である私は、使い手である提督アドミラルを失望させることなんて、絶対に赦されないのに。


 ……ふふっ、やはり私は、軍艦擬人化少女、失格だ。


『あの時』同様に、生まれながらに、何の役にも立たない、屑鉄スクラップに過ぎないんだ。




「……そんなことは無いよ、少なくともここに一人、おまえが生まれてきてくれて、本当に良かった思っている、人間がいるのだから」




「──っ」


 まさに、その刹那。


 あまりに唐突に思わぬ言葉を発するとともに、優しくそっと抱きしめてくれる、まさしく『この世界』における、新たなる『憧れの人』。


「……提督アドミラル




「だから、めでたくないとか、生まれてこなければ良かったなんて、そんな哀しいことを、言うんじゃないよ。僕はもうおまえ無しでは、文字通りに生きてはいけないんだから、これからもずっと一緒にいて、おまえの誕生日を祝い続けてあげるさ」




 ……この人ったら、もう。


 本当に、仕方ないんだから。


「おまえ無しには、生きていけない」、ですって?


「これからもずっと、一緒にいよう」、ですって?




 それではまるで、『プロポーズ』ではないですか?




 どこかの萌え艦隊ゲームの『仮のシステム』でもあるまいし、たかが兵器に向かって、何を馬鹿なことを言い出すのやら。


「……まったく、しょうがないですねえ。確かに提督アドミラルはよわよわなんだから、これからも私が護って差し上げなければなりませんしねえ」


「そうだ、そうだよ、これからも、よろしくな! ──とにかく今日は、誕生日、おめでとう!」


「あ、ありがとう、ございます」


 そう言って、柄にも無く頬を染めて恥じらう私を見て、恋人──というよりも、あたかも『愛娘を見守る父親』のような、慈愛の表情を浮かべる男の顔が、何だか癪に障ったので、最後に一つ、釘を刺しておくことにした。


「ところで提督アドミラル、重要なお話があるんですが」


「うん、何だい? 急に改まったりして」




「実は私の進水日の2月29日は、『あちらの世界』においては、四年に一度の閏年にしか訪れませんので、当然私も四年に一度しか年を取りません。よって現在はどうにか、『兄と妹』程度の年齢差である私たちですが、そのうちすぐに『親子』ほどの、歳の差カップルとなってしまうでしょう」




「──ええっ⁉ ちょ、ちょっと、それって!」


「ええ、どう見ても血縁者に見えない私たちが、常に連れ立って歩いていたりしたら、そのうち『事案発生』、待ったなしでしょうねえw」


「聞いてないよ、そんなこと! だったらもう、おまえとの契約は破棄だ!」


「残念ながら、すでに申しましたように、提督アドミラルと軍艦擬人化少女との『契約』は、『魂同士の結びつき』とも言い得るものですので、一度結んでしまったら、よほどの理由が無い限り、けして解除することなぞできませーん♫」


「そんな、殺生な⁉」


「──というわけですので、幾久しく、よろしくお願いいたしますね♡」


「とほほほほ、まさかこんな『ロリコントラップ』が、隠されていたとは……」


 そのように、心底途方に暮れてしまう己のあるじの姿を、まさに歳相応にいたずらっぽい笑みを浮かべて見守りながら、その時の私は、




 ──生まれて初めて、自分の進水記念日を、心から嬉しく思うことができたのであった。

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