迷惑メール

佐々木実桜

四年に一度

世間が『四年に一度の〜』やら『うるう年〜』やら何かと賑やかす中、僕は今日もいつもと変わらない日を過ごす。


今日は休みだから少しだけ遅く起きて、飼い猫に餌をやって、人に出せるようなものじゃない朝飯を食べ、そしてまた布団に入る。


なんてことない自堕落な生活。


卒業と同時に始めた一人暮らし、口出しする人はいない。


(今日は、何を観ようかな)


父に便乗して登録させてもらっている動画サービスで観る作品を物色していると、公式アカウントか業務連絡以外めったに通知の来ないメッセージアプリから何やら通知が。


「『四年に一度のこの日に願いを叶えてあげましょう‼︎』…?迷惑メール的なアレか?」


ピコン‼︎


「『迷惑メールではございません!!このメールはお客様にだけ特別にお届けさせていただいております!!さあ、返信に願いを書き込んでください!!』なんだこれ、怪しいにも程があるだろ。」


願い、願い…。って僕はなんで願いを書き込む気でいるんだ。


「でも、抜かれて困る情報もない、よな?」


そして僕は独り言を発しながら、馬鹿みたいに願いを書き込んでしまった。


『隣の部屋のあの子と話せますように』


なんてしょうもない願いだ、もっと壮大な願い事はなかったのか。


と思わないでもないが如何せん元々無欲な方で、今の僕にはこれしか思い浮かばなかった。


「ど、どうしよう、送信していいのかな…」


なんて迷っていると、突如飼い猫が飛び込んできてスマホを落としてしまった。


「あっ、」


どうやらその拍子に送信ボタンを押してしまったようだ。


何か起こる様子はない。


「まあ、そりゃそうだよなあ」


四年に一度だからといって、僕に何かが起こるなんてことはないのだ。


「馬鹿馬鹿しっ」


少し不貞腐れた僕は、惰眠を貪ることにした。


「ネアも一緒に寝ような」



アラームをかけることなく眠った僕を起こしたのは飼い猫の鳴き声とインターホンの音だった。


こんな僕の家に来るのは宅配便業者か勧誘か大家さんぐらいで大家さんは来る時事前に連絡をしてくれるし、何か頼んだ覚えはないから、多分何かの勧誘だろう。


無駄に起こされてしまったが無視することにする。


「りさちゃん!居留守使ってないで出てきてよー!」


…りさ?


間違っても僕の名前はりさではない。


確か、隣のあの子がそんな名前だったような…。


…開けてみるか。


厄介事なのは間違いなかったのに、僕は調子に乗って開けてしまった。


「さっきから煩いんですけど、誰ですか。」


幸か不幸か、僕は少しだけ背が高く、少しだけガタイがよく、そして少しだけ目つきが悪い。


「え、え?ここりさちゃんの家ですよね??」


扉を開けると居たのは、お世辞にもおしゃれとも清潔とも言えない、なんだか異様に不気味な男。


寝起きで少し気が大きくなっていたのと、少し気になっていた女の子の友人(仮)がこんな男で気を悪くしてしまった僕は、つい嘘をついてしまった。


「りさなら今寝てますけど、あんた誰ですか。まさかりさにちょっかい出してたりしないですよね?」


少し凄んでみると男は「し、失礼しました!」と言ってつまづきながら逃げていった。



(や、やっちゃった…)


ありえないくらい、気持ちの悪い隣人になってしまった。


どうしよう。


大家さんに言われるぐらいなら大丈夫だけど、通報されたら適わないな。


どうしたものか。


解決策を考えるべく家に入ろうとすると「あのっ」と、声をかけられた。


振り返ると、件のりささんが彼女の部屋のドアの前に立っていた。


「もしかして、聞いてました?」


僕が情けなく聞くと彼女は頷く。


「勝手なことしてすい「ありがとうございました!」た…え?」


「あ、謝っていただくなんてそんな!本当にありがとうございました!」


「えっと、どういう…?」


「あの人、俗に言うストーカー?で、最近ずっと付きまとわれてて、困ってたんです!!」


「はぁ、」


「だから本当にありがとうございました!!」


「いいえ、僕こそ勝手なことしてすみませんでした。それでは」


なんだか心もとなくてそそくさと家に入ろうとすると彼女は僕を引き止めるように「待って!」と言った。


「はい?」


「お、お礼をしたい、ので、お食事でもどうですか!!」


……


「え?」


「あ、もちろん彼女さんがいらっしゃるとか迷惑なら全然!!」


「いや、いないですけど…」


「あ、えっと、だめ、ですか?」


「はぁ、えっと、僕でよければ。」


「ほ、ほんとですか!えっと、じゃ、じゃあ明日とか空いてたりしますか?」


「明日は休みなので、大丈夫ですよ。」


「や、やった!じゃあ、明日の13時頃に、ロビーで待ってます!」


そういうと彼女は少し顔を赤らめながら、部屋の中に戻っていった。


…これは、夢だろうか?




「やった、やった!」


まさか本当にお食事にいけるようになるなんて!


最近悩まされていたことも少し進展があって、しかも、気になっていた人とお食事にいけるようになるなんて!


もしかして、あのメール本当なのかな??


『四年に一度のこの日に願いを叶えてあげましょう!!』


だって、私の願い事、叶っちゃった!!



『隣の部屋のあの人と話せますように』


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