四年に一度じゃ早すぎる!
烏川 ハル
四年に一度じゃ早すぎる!
その日。
帰宅した俺は、ノートパソコンを鞄から取り出し、立ち上げようとしたが、うんともすんとも反応しなかった。どうやら、壊れてしまったらしい。
「寿命か……」
正直、このパソコンが故障すると、かなり困る。仕事とプライベート、その両方で使っているからだ。
きちんとした企業ならば、個人のパソコンは職場に持ち込ませないとか、会社のパソコンは持ち出し厳禁とか、管理もきちんとしているのだろう。だが、しょせん俺の職場は、大学の小さな研究室。そのあたりの線引きは曖昧であり、研究データや論文草稿など、皆が個人のパソコンの中に入れていた。
もちろん、研究室の共用のパソコンにも、実験ノートと研究データのバックアップは入れてある。だが書きかけの発表草稿とか、研究の参考として読む論文とかは、仕事のうちであると同時に、ある意味ではプライベート。研究の合間の待ち時間だけでなく、家に帰ってからも必要なものだった。
「そういえば……」
壊れたパソコンへの対処は後回しにして、少し現実逃避気味に考える。
「俺が想定する『きちんとした企業』の場合。パソコンを完全に分けてしまったら、持ち帰り仕事の時は、どうするのだろうね?」
もしかしたら、そういう一流企業では、仕事は完全に会社で済ませるから、そもそも『持ち帰り仕事』が発生しないのだろうか。
「よく学びよく遊べ、みたいな感じかな……?」
と独り言を口にしたところで。
無駄な妄想をやめて、現実問題に立ち返る。
ノートパソコンの中身は全て、一応、自宅に置いてある外付けハードディスクで、毎晩バックアップをとることにしていた。
だが、今日の昼間に職場でダウンロードした論文。明日までに読んでおこう、と思っていた論文。それは当然、まだバックアップしていなかった。
「まあ、あれはダウンロードし直せばいいから……」
と思いながら、机の上のデスクトップパソコンのスイッチを入れる。ついつい家でもノートパソコンを使ってしまうので、こちらは、ノートパソコンに何かあった時くらいしか出番のない筐体となっていた。
読むつもりの論文をダウンロードした後、ネットで新しくノートパソコンの注文も行う。
「そういえば、前にノートパソコンが壊れたのも、冬だったっけ」
ふと思い出す。以前にどこかで「ノートパソコンの寿命は五年程度」と聞いた覚えがあるのを。
俺の場合も、だいたい同じくらいだろうか。いや、もっと短いだろうか。もしかすると、持ち運び前提のはずのノートパソコンも、毎日運ばれると壊れやすくなるのだろうか。
そう考えて注文履歴を確認すると、前回は四年前の冬だった。
「五年どころか、四年しか持たなかったのか……」
苦笑しながら、ついでに遡ってみる。すると一つ前だけでなく、二つ前も冬。いや三つ前も冬。
一月だったり二月だったり、多少のズレはあるものの、ちょうど四年ごとに、まるで計ったかのようにノートパソコンは寿命を迎えて、俺は次を購入していた。
「おいおい……」
顔を上げて、壁に貼られたカレンダーに視線を向ける。
今日は2月29日。
つまり、うるう年になる度に、俺はノートパソコンを買い直しているらしい。
「何だよ、これ。うるう年の呪いかよ?」
そんな言葉が、俺の口から飛び出した。
(「四年に一度じゃ早すぎる!」完)
四年に一度じゃ早すぎる! 烏川 ハル @haru_karasugawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
カクヨムを使い始めて思うこと ――六年目の手習い――/烏川 ハル
★212 エッセイ・ノンフィクション 連載中 300話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます