還り路

 長い追憶から我に返ると、舟のきしみと水音が耳に戻ってきた。

 さきに吊るした冥火カロンが航路を照らしている。


 半身が闇色に焼けただれた冥界の河の渡し守、それが今の私だ。私は死者を冥界へと送る仕事を終え、再び河をさかのぼって帰ろうとしている。

 愛するイリヤが待つ河岸の家へ。


 その側には祖母と、今や両脚を失った先代の渡し守が住む家がある。

 庭のミモザも、もう咲く頃だろう。



 花言葉は、『秘密の恋』。






<了>

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冥火のランプ 鍋島小骨 @alphecca_

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