第7話
そういえば親の噂話で、みよちゃんの母親もあの土地に馴染めなくて離婚したという話を聞いたような。
――まさか、みよちゃんじゃないよね?
いくら何でも偶然が重なりすぎだと思ったが、すぐ打ち消した。
わたしのことはオーナーから連絡をもらったときに初めて知ったようだし、そもそも引っ越し先は会社に報告したから、主がみよちゃんなら送り直すような手間をかけずに新しい住所に送ってくるはず。
駅を出て、先日相談した交番の前を通り過ぎる。
カウンターの向こうに座っている女性警官と目があったので軽く会釈する。女性警官は無表情に、軽く頷いた。わたしのことはすでに忘れているらしい。彼女の探るような視線になんとなく居心地の悪い思いを感じながら、アパートへと向かった。
郵便受を確認すると、またあの白い封筒が複数入っていた。転送届を出したあとのものが、まとまって届いたのだろう。
おそるおそる手を伸ばしたとき、
「ちゃんと、届いた」
と背後から声がして、驚いたわたしは文字通り飛び上がった。
オートロックなのになぜかみよちゃんが中にいる。
微笑む彼女の手には、複数の白い封筒が入ったビニール袋が――
言葉と顔の色を失っている私に、みよちゃんは困ったような笑顔を浮かべた。
「あの頃の思いを、わたしが味わった日々と同じ時間をかけてさつきちゃんに伝えたかった。まだ続くから、ちゃんと読んで。あと竜彦くんのこと、思い出した。彼、電車に飛び込んで亡くなったみたい。怖いね」
その言葉を聞いたとたん、わたしも思い出した。
――竜彦をけしかけたのは、わたし。
他の地元の子となじめなかった彼女は、いつもわたしにくっついてきた。
そんな彼女が鬱陶しくて、竜彦がいじめるように仕組んだのはわたし。しばらくすると不登校になり、母親と一緒に引っ越していった。
「もう少し内緒のつもりだったんだけど、さつきちゃんがあまりに覚えていないから。最後までちゃんと読んでほしくて。あともうちょっと背後に気を付けたほうがいいよ。夜はとくに怖い人も多いんだから」
みよちゃんは袋をゆらし、中身をあける。消印がまだついていない封筒が、わたしの足元に広がった。
……吐き気がする。
「まだたくさんあるの。じっくり読んで」
耳鳴りの向こうで、みよちゃんの声がそう言った。
長い手紙 八柳 梨子 @yanagin
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