第6話
事務的な会話が終わると、女性が歯切れ悪く切り出した。
「出身地が山形県〇〇村ですよね。わたしも以前、住んでいたんです」
「そうなんですか。まさか、同じ学校……?」
「〇〇小に1年生のとき、父親の実家に引っ越して」
「あー! 東京からの転校生!」
「やっぱり、同級生だった!」
女性の声が、気安げなものへと変わった。
「うわ、すごい偶然だね」
話しながら、わたしはみよちゃんの当時を思い出そうと記憶を辿った。
東京から引っ越してきた彼女に最初はすごく憧れていたような気がするが、見た目も性格も地味だったからすぐ興味を失くしたような――。
「今度、お茶でもしよう。思い出話もしたいし」
彼女の言葉に、(語るほどの思い出なんてない気がするんだけど)と思いつつ、いずれ本社勤務になったときのことを考えて了承した。
――それから数日後。
待ち合わせのカフェ入口で、
『着いたよ』
とメッセージを送ると、奥の席にいた女性が私に向かって片手を上げた。
「みよちゃん?」
「さつきちゃん? 久しぶり。きれいになったね」
優しい笑顔の彼女を見て、なんとなく当時の面影が浮かんだ。相変わらず、地味だ。
「ありがとう。みよちゃんもね」
「両親の離婚で、こっちに戻って以来だから……ほぼ20年ぶり?」
「そっか。途中でまた転校したんだよね」
少しずつ、彼女に関する記憶が戻ってきた。東京に戻ることを羨ましく思ったような――。
「言葉も違うし、最初はすごく不安だったけど、さつきちゃんが親切にしてくれたから助かった。あの時は本当にありがとう。オーナーからの連絡でさつきちゃんの名前を見たときは、まさかと思ったんだけど」
「びっくりだよね。しかも同じ会社とか」
「うん。――そういえば、竜彦くんは元気?」
急に名前を振られても、とっさには思い出せない。
「竜彦? 連絡は取ってないけど」
「そうなんだ? 彼にはすごくいじめられたな」
いじめと聞いて、体格が大きく、怒るとすぐ暴れる男子が一人いたことを思い出した。
「あいつ、短気だったし。女子にも容赦なかったよね」
「とくにわたしに。今もトラウマで、身体が大きい男性が苦手」
「わたしは免れたけど、あいつに目をつけられた人は大変だったよね」
するとみよちゃんは目を伏せた。
「ほんとに」
二時間ほど話したあと、わたしたちは駅の改札口へ向かった。電車の進行方向は違うが、ホームは同じだ。
「またお茶しよう。いずれ本社勤務になると思うし、これからもよろしくね」
わたしの言葉に、みよちゃんは笑顔で頷く。
「もちろん! 企画か営業希望だっけ? 総務か経理だったらすぐ本社に来れたのに」
「それ知らなくて。それに事務って症に合わないかな」
「そうなの? じゃあいつか本社に来てくれる日を楽しみにしてる」
先に、みよちゃんが乗る電車がやってきた。
電車に乗り込んだみよちゃんに手を振った直後、逆の電車も到着した。
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