14 虚構世界を設計する密かな愉しみ
さまざまな語り手を演じるために、その語り手が身を置く世界そのものを構想するという方法もあります。面白い世界を立ち上げることに成功すればそれもまた一興です。例えばこの作品。
【大雪】SFPエッセイ024
https://kakuyomu.jp/works/1177354054892340431/episodes/1177354054892916561
お題は【大雪】。どの程度の大雪なのか。どこに大雪を降らせるか。語り手は大雪の土地にいるのか部外者なのか。あれこれ思いを巡らせるうち、ぼくにとっても読者にとっても大雪が降ると思っていない土地に大雪が降るほうが面白いだろうと考え、であれば東京に大雪を降らせよう、それも今までに経験したことがないほどの大雪を降らせようと思いつきます。
ではなぜそんな大雪が降るのか。ある日、突然、想定外の大雪が降る、というのではあまり意外性がない。どうせならその世界ではもはや東京が大雪に閉ざされるのは日常となっていることにしよう。その方が読者にとっての意外性もより高まるはずだ。ではなぜそんなことになったのか。もちろん「気候変動」のせいだ。用語として「地球温暖化」という言葉が先行したので、多くの人が「気温が上がる」というイメージを持ってしまっているが、実際には暑さ、寒さや風雪雨などがそれぞれより激しく厳しくなるのが「気候変動」なので、東京が豪雪地帯になるという設定も面白かろう。ここからはもはや科学的かどうかはあまり関係ない。ぼくのつたない気象の知識でも東京は豪雪地帯になる条件を備えていないことはわかっている。雪雲がぶつかる高い山もないし、たとえ山があったとしても海を越えて寒気団がやって来るためにはその季節には南東の風が吹いていなければならない。「気候変動」といえどもそこまでの変化はないだろう。でももうそんなことは関係ない。1年の大半を雪に閉ざされる都市となってしまった東京を舞台にしたほうが面白いに決まっている。その虚構の東京に住む人が、雪に対する思いを書こう!
というような思考を経て書いたのがこの作品です。語り手の女性(どうせならというので女性にしました)が語る「瀬戸内出身者の雪への思いや経験」はわりとぼく自身の思いや経験と重なります。そして東京に出てきてから、雪国出身者に「雪の歩き方を知らない」「雪との付き合い方を知らない」と馬鹿にされたのも実体験に基づきます。
そう。書き終えてみれば、豪雪地帯東京という突飛な設定をのぞけば、ここに記されている語り手の心情は理解しやすく、共感もしやすく、いつの時代のどんな状況であっても通用する普遍的なものであることが感じ取れます。読者が「写真でしか見たことのないかまくらをつくりたくて外に駆け出す少女の気配」に思いはせ、自分の中に住むそんな存在を思うあたりでこの作品は終わります。
虚構エッセイとしてはここまで。ただし、小説ならば、そんな共感しやすい主人公が、豪雪地帯東京ならではの事件に遭遇してここから四苦八苦する様を描くこともできます。こうして新たな「世界の設定」を手に入れるのも虚構エッセイを書く愉しみの一つなのです。
あなたも書ける!虚構エッセイ入門 高階經啓@J_for_Joker @J_for_Joker
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