圧倒的風景描写に込められた、穏やかな恋心の機微

短編でありながら、というより短編であるからこそ、思いっきり情景描写に舵を切った美しい作品です。その情景は、巧みに主人公の胸中を映し、安直な言葉で理解する(させる)ことを許しません。そこに伴う爽快感だけでも、一読の価値ありです。

のみならず、本質となるドラマは実にさっぱりとしていて、大人びています。この『情景:ドラマ』のバランスは、きっとこの著者様ならではのバランス感覚の上に成り立っているのではないでしょうか。

『ドラマ=本質』と申し上げましたが、『ドラマが情景を支えているのでは』という不思議な感覚を得ます。
その一種の『逆行現象』が、涼しく読者を包み込んでくれます。

文学的であり、また、この作品でしか味わえない娯楽性を秘めた、独特で素敵なお話でした。

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