第7話 発売

「月間ノベラー読んだ?」

「ああ、読んだ読んだ」

 大学の席に座っている僕の耳に、前の席で話している話が聞こえてくる。

 ゴールデンウィークが終わり、大学が本格的に始まった。


「龍崎虹空乗っていたよな」

「ああ、新作に関する情報載ってたよな?」

「ああ、確か近かったよな」

「買うか?」

「もちろん。二作とも買ってるけどどちらも面白かったからな」

「だよな。俺も今イチオシの作家だぜ」

「やっぱ天才ってすげえな~」


「でも、龍崎虹空の年齢とか、顔とか全く出てないよな」

「いったいどんなやつなのか」


 僕はこの会話を聞きながら、取材したやつが発売したのかと思った。


 僕が受けた取材は月間ノベラーという小説家達の情報誌だった。僕も何度か取材されていた。月間ノベラーにはたくさんの作家の情報が載っている。大体の人は顔写真と共に載っているが、僕のページは写真は載っていない。写真のところには僕の体だけが載っている。顔出しはNGにしていた。そのため、僕の正体を知っている人は僕の周りを除いていない。この大学ではある1人を除いて……


「よう!快斗、おは」

 声の主は一個挟んで隣の席に座る。ここの教室は机が三人分つながっており、椅子には三人が座れるようになっている。

 

「おう」

「久しぶりだな。お前の情報載ってたな」

 健一は周りには聞こえないように月間ノベラーのことに触れる。

 そう、その1人とは健一のことだ。


「休み中は何か良いことあったか?」

 健一は自分の荷物を僕と健一の間に置きながら話しかけてくる。

「特に何にも無かったよ。そっちは?」

 僕にこうやって聞いてくるときはたいてい健一は僕に何か話したいことがある時だ。そのため僕は健一に言葉を返す。

「いや~彼女とディズニーランドに行って楽しんできた以外は特になんも無かったわ」

「それはおめでたいことで」

「お前も彼女作れよ。いいぞ~」

 そう言いながら健一は、僕にディズニーランドに行った時の写真を自慢してくる。

 僕はいいよと言いながら写真を拒むが、見ろ見ろと迫ってくる。

 すると、見えてくる写真にある違和感が浮かぶ。

「なあ、休み前に付き合ってたあかりちゃんじゃなくね?」

「あかり?あかりとは休みに入ってすぐ別れたよ」

「は?じゃあこの子誰だよ」

「さきちゃん。別れた後付き合い始めた」

「は?別れてからどれくらいの早さだよ」

「うーんと、間に学校で会ったじゃん?その時に告白されたから、その2日後かなー。ということで別れて4日後くらいか」

「…………」

「なに?そんなゴキブリを見るような目で」

「お前はゴキブリ以下だよ」

 僕は呆れた目で健一に言う。

「ひっで~なー」

「事実だ。何でこんなサイテーな奴がモテるのか……」

「やっぱ俺の魅力に女は勝てねえんだよ」

 健一はどや顔で語る。

 実際、健一は身長が高く、さらに頭も良くスポーツもできた。顔はイケメンだが、童顔で甘え上手なため女性の庇護欲を掻き立てるのが上手だった。そのため、毒があるとも知らずにその甘い蜜に寄って来た女性は数知れない。

 健一はすぐ女をとっかえひっかえして遊んでいると有名だった。健一と出会って2年経つが、健一が彼女がいなかった時期を僕は知らず、健一が3ヶ月以上続いたというのも聞いたことがない。さらに、健一が毎回付き合う人物はとてもレベルが高く、どこかの学校のミスコンなど、学校内で有名な人が多かった。


 やがて、健一と話をしていたら教授がやってきて、ざわざわとしていた教室が静かになり講義が始まる。



 


 

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色欲 たいき @Rggtkkk

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