第6話 取材
「なるほど、この物語にはこのような思いが詰まってるんですね」
「はい」
僕は記者の質問に答えていく。やがて最後の質問も終わる。時間としては30分ほどだろうか。
「お疲れ様です」
紅葉が僕に声を掛けてくる。今までは枡谷が付いてきていたが、紅葉が来てから僕の付き添いとして紅葉が付いてくることになった。
枡谷の負担が少し減った訳だ。今までは僕の仕事のすべてを管理し、いつも付き添ってくれていた。実際枡谷の仕事は会社で僕以外の編集もさることながら、僕の付き添いもすべてやってくれていたため、かなりオーバーワークだと思う。本人は何も言わないが。
僕が上京する時も助けてもらった。プライベートで唯一一緒にご飯を食べたりと交流があるのが枡谷だった。そのため、本人には言えないが、僕は枡谷の事を実の兄のように思っている。
仕事が終え家に帰ろうと考えていたときに、紅葉に誘われる。これからの事もあるためもっとお互いの親睦を深めたいということだった。
特に予定もないため、僕は紅葉の誘いに乗る。僕としても、これから一緒に居ることが長くなる人と親睦を深めることは悪くないと考えていた。
「それじゃあ、快斗君は高校生でデビューしたんだね」
居酒屋でお酒を飲みながら話す。最初に紅葉は僕の呼び方を快斗君と呼びやすくしたいという話になる。先生やペンネームで呼ばれるのは正直まだ慣れない。自分じゃないような、別の人間になったような気がするからだ。
「快斗君って普段何してるの?」
話は僕の話題となる。
「普段は……学生なので学校行ったり、執筆したりですね」
「休みの日は?」
「本読んだり、ぼーっとしたり……」
特にこれといったことはしていない。
「快斗君って趣味とかあるの?本以外で」
僕の考えていた回答を先に封じられてしまう。僕はその質問にとっさに答えることが出来なかった。
僕の趣味を探してみる。――だめだ、見つからない
「特にないですね」
そのあとにもいろいろと質問されるが、特に
「なんか、快斗君てとても謎だよね」
店に入り、およそ一時間ほど経った。
「そうですか?」
「だって全然私生活が見えないんだもの」
紅葉はそう言ってお酒を飲む。
「うーんと、なんか、そう、仙人みたいだね」
紅葉は探していた言葉が見つかったようだ。その言葉を繰り返し、適切な言葉だと自分で納得している。
「――何ですかそれ?」
それは、予想してない言葉だった。
「だって、快斗君見てると達観してるような、快斗君の周りだけ流れてる空間が違うような」
「それはきっと僕が色が視えないからですね」
色が視えない僕が他の人より変わってるのはそのせいだと思う。
「ああ……それもあるかもね」
紅葉は快斗が色が視えない色盲であるということを枡谷から話には聞いていた。
「僕はどこにでもいる普通の子供ですよ。大人になりきれない」
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