高いポテンシャルを感じるSF連作短編作品。

シンプルながら目を引くタイトルに吸い寄せられ、ゆっくりと読み進めさせていただきました。

近未来、箱庭のような自分だけの世界を仮装空間として創造することができる〈ヴァカンス〉と、〈ヴァカンス〉の創造主によって作られた〈オブジェクト〉、そして創造主の亡き後〈オブジェクト〉を削除する権限を持つ「狩人」という存在が物語の主軸となって展開します。この三つ巴の軸が上手い具合に相互作用しあって一編一編に人間ドラマやミステリーが詰まっている作品になっています。

正直に申し上げますと一個の作品としての完成度はそこまで高くはありません。設定は粗いですし構成は通り一辺倒、表現の拙さも目につきます。ですが、それらも本作のドラマ性を考えれば不思議とバランスが取れているのがこの作品の強みです。

例えば本作で気に入ったエピソードとして「誰が為のショコラ」が挙げられますが、話の転がし方と実業家フィン・スワローという人物の謎めいた一面を探る展開は二転も三転もひねりが利いていて非常に面白かったです。

金の亡者で他者に無関心なはずの実業家が遺したショコラティエの〈オブジェクト〉と、それにまつわるだれも知らない彼の過去を探るこのエピソードですが、淡々と進行する物語の中に人間の持つ意外さや儚さ、無情さや温かみのようなものが感じられます。このエピソードに限りませんが、最後の〈オブジェクト〉削除の感慨もその印象は様々です。

最後の「終末と道化師」も二番目に好きなエピソードですが、〈オブジェクト〉が人格ある存在として削除権限を有する狩人にしか削除できない対象であることが全面に押し出されたものになっていて、このエピソードを一番目に持ってきてもよかったのかなと思ったのですが、最後の最後にその話でオチを付けてこられてだいぶゾクッとしたので狙ったものだとしたらしてやられた気分です。

全体として荒さが目立つ作品ではありますが、作品のアイデアやエピソード内の細かな部分のつくり自体はとても良く、それが最後まで読み進められた決め手であり、すなわち本作にはより多くの人に認められるべき良さがあります。この作品が埋もれるのは本当にもったいないと思うところであります。