第27話 エピローグ

 灰冠島人口の半数以上が一夜で消失した事件は、全国で大きく取り上げられた。観光客に6本目の指が生え、島民含め6本目が腐り落ちた事象も世間を騒がせたが、いつの間にか騒ぎは沈静化し、一部のオカルトマニアの間で噂されるのみとなっていた。

 湯量が少なくなり温泉産業は縮小を余儀なくされた。川の水は大地に吸収され干からびている。この急な地質の変化は訪れた学者を悩ませているかもしれない。


 時任によると、教祖が行方をくらませたため土累奴教団は実質崩壊したそうだ。というかあいつはどうしたんだろう。本土に戻ってから近くの店で天ぷら付き海鮮丼を奢らされて、そのまま別れたんだっけ。雑誌記者とか云ってたけど、名刺も何も受け取っていないから所属も連絡先も分からない。ふと思い付いて名前で検索してみたら、変な占い師のSNSアカウントが検索結果上位に出てきた。最悪こいつに居場所を占ってもらうか?


 私はいつもと変わらぬ日常を送っている。だけれど、山羊やタコが苦手になった。ひづめを見るだけで恐怖心が蘇る。タコの触手がうねれば足がすくむ。

 灰冠島での二日間はあまりにも濃いものだった。


 おっと配信の通知がきた。23時半。もうそんな時間か。私は軽く伸びをしてアプリを開く。既にコメント欄ではいなり寿司スタンプが飛び交っている。


『こんきり〜』『こんきりです』『こんばんは初見です』


『こんばんは駒山です。というわけで、今夜も積読配信始めていきまーす』


 彼女が今日読むのは「屍龒經敟しりゅうけいてん」だ。あんなヤバそうな本を配信で読むな。


『お? 面白そうなもん持ってるな。オレに貸せよ』


『あー!持っていかれたー!』


『こんさん!?』『こんさんみてるー?』『これは強い』


『うっさいな。おい、夜なんだからあんまでかい声出すなよ。起きちゃうだろ』


『起きちゃう?』『他にも誰かいるんですか?』『もしや子狐』


『え、ええとこれはですね……』


 私はくすりと微笑みながら、英語でコメントをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

祝福のアンラッキーセブン 魚交 @element579

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ