37.3
佐々木実桜
微熱。
酷い寒気と下がらない微熱に悩まされるようになって約一週間。
三日目の時点で保健室には行ったし、五日目の時点で病院にも行ったが原因はわからないまま。
この程度では解熱剤を飲むほどではないという判断になり、何も出来ないでいた。
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『愛してる、瞬くん』
『誰にも渡さない』
『絶対に、絶対に…』
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今日も寝覚めの悪い夢に起こされて、最悪の朝を迎えた流れで体温を測ると
『37.3』
平熱は36.2だったはずだが、もはや今となっては37.3が平熱なのではないかとすら思うが寒気がある限りそんなこともないだろう。
もう少し上がってくれれば、親だって休ませてくれるだろうに、上がることもしてくれやしないから俺は今日も登校するしかない。
「松野、今日も体調悪そうやな」
同じクラスの三島が声をかけてきた。
三島とは三年間同じクラスで、出席番号が前後だからそれなりに仲がいい。
「まだ治らんねん」
ため息をこぼしながら教科書をしまう。
「どんまい、まあこれでも食べて元気出しーや」
そう言って三島は袋を差し出してきた。
中身は、スポーツドリンクと、ゼリー?
「珍しく優しいやん、さんきゅ」
今日も襲いくる寒気に耐えながら六時間の授業を乗り越えて、いざ帰ろうとした俺だったが、
「あ、」
机の横にかけた袋の存在を思い出し教室に戻ると、あまり話をしない同じクラスの志水が残っていた。
「志水、勉強?」
「うん。」
「そかそか、頑張れ」
そう言って俺が袋を取り、教室を出ようとしたら志水が、
「それ、」
と俺を呼び止めた。
「ん?」
「それ、なに。」
それとはこの袋のことだろう。
「あ、これ、貰ってん。」
「…そっか」
「うん。」
なんだか様子が変だ。
志水はおもむろに立ちあがると
「ねえ、僕も一緒に帰っていい?」
と言った。
「え、良いけど。」
「待ってて、すぐ荷物まとめる。」
そうして俺は、大して仲良くもない志水と帰ることになった。
「今日は珍しいことが多い日やわ、三島が優しかったり、志水と帰ることになったり。」
「三島さん?」
「おう、これ貰ったって言うたやん?くれたん三島やねん。」
「そうなんだ。」
「おん」
そんな話をしていると志水が急に立ち止まってしまった。
「どうしたん?」
「松野、急いでる?」
「別に急いでへんよ。」
「ちょっと来て」
「え?」
引きずられるように志水に連れられた先は、人気の無い公園。
「どうしたん?」
「それ、」
志水が指さしたのは三島に貰った袋。
「これ?」
「うん。それ、絶対に食べない方がいい」
「え?」
「頼むから、食べないで」
「んー、でも貰ったんだから食べないとダメだろ。」
志水は迷った末、踏み切ったように俺の手から袋を奪い取るとすぐさま中に入っていたゼリーを投げ捨てた。
「何すんねん!」
「いいから!みてて、」
そう言われて投げ捨てられたゼリーを見るとカラスが集っていた。
カラスが食べ物に集るのは普通のことだ、何らおかしいことはない。
「なんや、普通のことやろ。」
「違う。まだ。」
更に見ていると、ゼリーを食べたカラスはやがて震え始めて、そして最後には倒れてしまった。
様子を悟った他のカラスが飛び去っていく。
「どういうことやねん…毒でも入っとったんか…」
「食べたら松野がこうなってた。」
「俺、三島に恨まれるような覚えないぞ。」
「…僕は松野に食べて欲しくなかっただけだから」
そう言って志水は帰っていってしまった。
置いていかれた俺には、倒れたカラスを見ながら立ち尽くしていることしかできなかった。
(今日も言えなかった…)
松野瞬。
こんな僕にも話しかけてくれる、良い人。
僕には、彼が酷い寒気と下がらない微熱に悩まされている原因が、見えている。
彼の肩に、恍惚とした表情でへばりつく、
三島みなみの、生霊の存在が。
あのカラスを殺したのは、毒なんかじゃない。
三島みなみの、愛だ。
きっと、三島みなみの愛は松野の夢にまで及んでいるだろう。
早く言わないと彼は、松野瞬は、
あの
37.3 佐々木実桜 @mioh_0123
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