バウムクーヘン・エンド

チタン

バウムクーヘン・エンド

 今日はあなたの結婚式だった。

 幸せそうな顔のあなた、祝福する人々の声、教会の鐘の音。

 もう、わたしがあなたと結ばれる事はないと告げる音……。


 引き出物にもらったバウムクーヘン。真ん中の穴をぼんやり見つめる。

 わたしの胸にもぽっかり穴が空いたみたい。おかしいな、わたしの隣に空いてたあなたの穴は、とっくの昔に埋めたと思ってたのに……。


 あなたの事は幼い頃から知っている。私たちはいわゆる幼馴染みというやつ。

 幼い頃は、わたしはあなたといつか結ばれるんだと信じて疑わなかった。親も、友達も、周りのみんなは、そんなわたし達のことを囃し立ててた。


 自分でも気づかなかったけど、つい最近まで心のどこかで、まだあなたと結ばれるつもりでいたみたい。


 おかしいよね。

 一度、わたしとあなたが交わったとき、あなたに別れを告げたのはわたしの方なのに……。


 もしも、あのとき違った事を言えていたなら、今もあなたは隣にいたのだろうか?


 あの頃まで、あなたのことを一番知っていたのはわたしだった。

 けど、今日見たのはわたしの知らないあなただった。


 あなたも、届いた招待状を見てわたしがどれだけ動揺したか、知らないでしょう。

 今日だってずっと笑顔で、あなたに祝いの言葉まで掛けていたのだから。


 わたしがあのとき、あなたに今の思いを告げていたら、あなたはどうしただろう?

 わたしにそんな勇気も資格もないことは、わたしが一番知っているけど。



 箱から出したままのバウムクーヘン。

 切らずにそのままかじってみる。


 とっても、とっても甘いはずのバウムクーヘン。

 なのに、なぜだか味がしない。

 それはきっと、胸に空いた穴のせい……。

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バウムクーヘン・エンド チタン @buntaito

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