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 彼の行く先を聞いた。


夢を見るためにはあまりに現実は邪悪で、現実を見るためにはあまりに夢は邪魔であった。しかし夢だけを見ていては前に進むための足掛かりがなく、現実だけを見ていては前に進むための意志がない。私は目の前の現実を踏み、夢の階段を上がった。




 家に帰った彼はこう言った。『ただいま、父さん』

父親は、自分が捨てた子が自分の下に、それも詩人となって帰ってきたことに感動し、それまであったことを彼に話した。彼を捨てたのち、彼に瓜二つの子供を見つけ、同じ名をつけ、育てたこと。育てた子供にも詩人を目指させたが、どうもいい詩は作れそうにないこと。


彼と父親は一晩中家で話をしていたが、その日私がそこに帰ることはなかった。


翌日、私が川で亡くなっているのが発見された。




これが、彼の最後の話だ」


男性の話は終わったようだ。相変わらず窓の外を向いており、顔は見えない。

「なぜ、このような話を僕に」


質問に答えることはなく、男性は窓を開け、外の世界に出ていった。

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ある詩人の告白 逆傘皎香 @allerbmu

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