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翌日、普段通り私は空想のための場所へと向かった。森の中の開けた場所で、おそらく私以外にこの場所を知る人はいない。横になって空想に耽っていると、森の発する音の中に自分の声に似た声を聴いた。声の方を確認すれば私と瓜二つな少年が歩いていた。少年を一目見た瞬間、赤の他人と思うことができず、私は少年の後を追った。
彼は木に凭れ、鞄を地に置き詩を諳んじ始めた。もしこれが彼自身の作ならば、彼は優れた詩人だ。私は、彼と比較している自分に気づき、浅はかだと自分を罵った。酷似した外見、似た声、そして詩を愛するという条件が揃っているため、比較してしまう。そして普段に増して、私は夢を持っている自分を呪った。
私が下らない思考に憑りつかれている間に、彼は休憩を終えたらしい。彼が体を預けていた木の根元には、鞄が残っていた。
私は周囲を確認し、鞄に近づき、開けた。ノートが目に入った。気づいたときにはノートの中に広がる宇宙に、私は漂っていた。彼は詩人だった。不可思議な世界が確かに、しかし静かに存在し、私の目の前に広がっていた。決してこちらに手を伸ばしてはこないものの、覗けばすぐに引き込まれ、気付けば彼の世界の上で旅をしている。
私は自分の世界までもが広がっていくような感覚を覚え、彼と自分を比較していたことを恥じた。ノートを鞄に収め、彼を探しに森を出た。
彼は街の中で見つけることができた。後ろから声をかけると、彼は私の顔を見て驚いた後、鞄の礼を言った。彼は私の名前を聞くと、ぎょっとして、自分も同じ名前だといった。私たちは互いに、目の前の相手が別人だとは思えなくなった。
彼は幼い頃に自分を捨てた父親に会いに、この街に来たのだという。その話を聞いて、私は自分の幼い頃の記憶――空想に耽るだけで毎日を過ごしていた日々のことを思い出した。私も、捨てられていたのだ。
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