精霊の通行地役権を解決せよ!

第1話 本物の弁護士は味方か、敵か、やっかいものか?

 笑顔の若造がそこにいる。

「いやだなー。そんなにビビらないでくださいよ。僕に恥かかせておいて」

 怖すぎるよ。

「僕はクリフ。23歳です」

 洒落た名前だな。俺の名前なんてサトウだぞ。そんでもって、やっぱり年下か。クリフとやらが勉強していた俺の向かいに腰を下ろす。

「僕、結構な苦労知らずなんです。そんなに勉強しなくても一流大学に受かって、そんなに勉強しなくても在学中に弁護士の資格も取得しちゃったんです」

「うん? 自慢話かな?」

「違うんです。模試がB判定なのに、合格しちゃたんです」

「うん? だから自慢?」

「だから、あなたみたいな、頭の悪そうな受験生にも負けてしまった」

「あん? 本当にケンカ売ってるの?」

「違うんです。本当に実力がないから、どこの弁護士事務所にも雇ってもらえなくて、この前も変な金持ちに雇われてたでしょ? 多分、ここの時給よりも低いです。おっしゃるとおりタブついた弁護士です」

「へーー。で?」

「一緒に勉強しましょ?」

「嫌だよ。何でだよ」

「僕も、もう一度勉強をやり直したいんです」

「一人でやれよ」


「そこなんです! 自分の方が立場が弱いはずなのに、その堂々たる厚かましさ! 育ちのいい僕にはない」


「やっぱりディスッてる?」

「ここで、一緒に働かせてください」

「俺が決めることじゃないし」

そこへ、ご主人が、ひょっこり出てくる。

「いいよ」

「ご主人!」

 俺とクリフの声が被る。もちろん、別の意味合いで。

「もう一人くらい、雇いたかったんだよ。こんな村でバイトしてくれる人なんていないし。なんやかんや、繁忙期はサトウ君とだけだと手一杯だし」

「そりゃそうですけど」

「じゃあ、採用で」

 クリフが元気よく頭を下げる。

「ありがとうございます!」

 ご主人の人の良さにも困ったものだ。この前まで、あの金持ちの弁護士だったというのに。


<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡


 クリフは本当に手際が悪かった。本当にどこのボンボンなんだ。掃除をさせてもダメ、接客をさせてもダメ。


 ホテルの軒先で、ぐったりしたクリフと休憩をとる。

「やっぱり、僕は何をやってもダメなんだ」

 結構、落ち込んでいて、なんだか、少し不憫になってくる。

「まあ、そのうち慣れるよ」

「優しいんですね」

 ウルウルした目で見つめてくる。気持ち悪いな。そこへ、ララちゃんがやって来た。

「サトウ、差し入れ」

 あの一件からララちゃんのご両親が、俺にデメキン様焼きを差し入れしてくれる。いいんだけど、いいんだけども。

「ララちゃん、『サトウ』じゃないだろ。『サトウさん』だろ」

「分かった。サトウ」

 テテテッと、ララちゃんは走って行ってしまう。絶対に分かってない。

「今の美少女は誰ですか?」

 美少女? ララちゃんが? 年相応に可愛らしくはあるが、逞しい感じが美少女からは程遠い気が。

「まだ15歳だぞ。変態なの?」

「感想を述べたまでじゃないですか。いいなー。サトウさん、呼び捨てにしてもらって」

「やっぱり変態じゃん。能力者だから変なことしたら、張り倒されるぞ」

「しませんよ! 能力者なんだー。カッコイイー」

 さっきまでの落ち込みはどうした。お前も、大したメンタルじゃないか。


 また翌日もララちゃんがやってきた。またデメキン様焼きを持っている。今度は数が多い。隣のクリフが目を輝かす。

「ララちゃん! クリフお兄さんにも、くれるのかい?」

 ララちゃんに抱き付いてもいいよ。と言わんばかりにクリフが両手を広げている。何でだ。

 ララちゃんが、クリフの脛を思いっきり蹴る。クリフが涙目だ。

「なんで?」

「なんかキモかった」

 俺は頷く。

「正しい判断だ。ララちゃん」

 ララちゃんとハイタッチする。

「何で!? サトウさんばっかりずるい」

「少しでもキモイと思ったら、今みたいに容赦なくいくんだぞ」

「分かった!」

「いい子だ!」

「だから、抜け物にしないで」

 それより、クリフの分じゃないとするとデメキン様焼きの数が何故、多いのか。

「このデメキン様焼き、ご主人の分ってこと?」

「違うんだ。サトウに頼みがある」

「サトウさんな」

 そのことには触れず、ララちゃんは話し出す。

「友達の精霊が、ゴマ村へ続く道に通れなくなってこまってるんだ」

「友達に精霊がいるの? てか、この辺に精霊いるの?」

 クリフが得意げに話し出す。

「知らないんですか? 建国者メンバーの一人が精霊で、オミソ村付近には比較的に精霊が住んでるんですよ。学校で習いますよ」

 クソッ。さっきの復讐か。勉強しかできないくせに。まあ、アホなクリフは置いといて。

「通れなくなったって。地役権かー。急に通れなくなったって?」

「そうなんだ。今までは、普通に通らせてもらってたのに、急に地主が変わって通れなくなったていうんだ。ゴマ村に商品を搬入できなくて困ってる。なんとかできるか、サトウ?」

 

 ララちゃんが、真剣な目で見る。この多い分のデメキン様はお小遣いか。ララちゃんの頭に手を乗せる。

「サトウさんな。分かった。明日ホテル休みだから行ってくる」

 ララちゃんが頷いて、またテテテッと走っていく。

「サトウさんって、いい人なんですね。休みの日はずっと机にかじりついて勉強してるのに」

 クリフが、はっとする。

「やっぱり、興味ないふりしてララちゃんのことが!」

「お前みたいな、変態と一緒にするな」

「じゃあなんで」

「なんでって、断ったら弁護士目指す意味なくなっちゃうだろ」

「え? 人を助けたいとか」

 俺はつい黙ってしまう。

「フツーッッッ! カーワーイーイー。意外とウブなんですね」

 クリフの脛を思い切り蹴る。

「イッタ! ララちゃんのはご褒美でも、オッサンの蹴りはいりません!」

「お前が、悪い」

 てか、ご褒美になってたのか。とんだ変態だな本当に。また別の手をララちゃんに仕込まなければ。


 翌日、俺は精霊のいる集落に向かう。なぜかクリフもついてくる。

「なんで、お前も付いてくるんだよ」

「だって、サトウさん弁護士資格持ってないじゃないですか。僕がいれば、なんかあった時、僕のサポートだったてことにすればいいでしょ? 僕はサトウさんの、厚かましさを学べるし」

 クソッ。まぁまぁ、その通りだ。でもクリフが言うと腹立つな。

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