デメキン様を奪還せよ!
第1話 コバンザメな社会人サトウ
オミソ村のサービスはそんなに悪くない。やっぱり目玉であるデメキン様がないことには、どうしようもないんじゃなかろうか。
俺は朝の床掃除でモップをかけながら考える。そしてクリフが、コーヒーを片手に新聞を優雅に読んでいるのが目に入る。
「おい、なんで新聞読んでるんだよ」
「朝の日課なんです」
知らんがな。そういうことじゃないだろう。反論する気もうせるな。ちなみに、この前ついてきたペットという名の精霊も、一緒に新聞を読んでいる。なんでだ! だれか一緒に床掃除して!
朝からなんだか疲れた俺は、釣り銭を補充しているご主人に、なんとなく尋ねてみる。
「ご主人、オミソ村の人はデメキン様がなくなって大丈夫なんですか?」
「そりゃ、寂しいけど。当初は署名運動なんかもしたんだけどね」
「署名運動したんですか!」
「まあねー。当時はそれなりに動いたんだよ」
「それで?」
「行政は偶像崇拝禁止を持ち出して、取り合ってくれなかった。何より何処にあるか分からないから手のうちようがないよね」
「サトウ!!!」
ペットが新聞を持って飛んでくる。
「ちょっと、ペットさん。まだ読んでるんだけどー」
ペットはクリフに構うことなく、俺の顔に新聞を擦り付ける。
「いやいや、それじゃ見えない。痛いし。落ち着いて!」
「見ろ、サトウ!!!」
ようやく、新聞に目を落とすと『帝国ホールディングス、リゾートホテルの噴水にデメキン様を設置』の文字が。
「え!!! デメキン様!? なんで!?」
「帝国ホールディングスが、所有権持ってるて書いてあるぞ」
「うんな、バカな! てか、世間の人はいいの? オミソ村にあってこそのデメキン様でしょ!?」
「アクセスよくて、拝みやすくて、商売もしやすくていいって」
「商魂たくましい、オミソ国民め! ご主人、取り返しましょう!!」
「え! サトウ君が動いてくれるの!? そりゃ弁護士のサトウ君がそうしてくれたら、嬉しいけど」
「任せてください! 合格祈願したいんで!」
「合格祈願? なんの?」
あ、しまった。俺のバカ。
「いえいえ、なんでもないですー」
ペットとクリフの目線が痛いな。
<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡
クリフと帝国ホールディングスのリゾートホテルへ行くためオミソ村の街道をあるいていると、クリフが話しかけてくる。
「サトウさん、神頼みより勉強した方がよくないですか」
「分かってるよ」
「この前の模試の成績良かったからって、安心しない方がいいですよ。天才と呼ばれる人々が直前期に怒涛の追い上げを見せるんですから」
「怖いな」
「せっかく仕上がってきてるのに、もったいない。正直合格した時の僕より仕上がってると思いますよ」
「本当に!?」
俺は目を輝かせてクリフを見てしまう。こいつこんな、いい奴だっけ?
「いや、そんなに喜ばれると気持ち悪いな」
えーーー。やっぱりクリフだよ。
「だいたい合格祈願なら、そのリゾートホテルでできるじゃないですか」
「いや、オミソ村でのデメキン様の方がご利益あるだろう」
「でたよ、いい人。助けたいとか、なんとか思ってるんでしょう」
「合格祈願したいだけだっていうの」
「寸暇を惜しんで勉強してるのに、わざわざ時間削って」
「え? 心配してるの?」
「理解不能なのと、いい人みると、ディスたくなるんですよね? ありません?」
「ないよ!」
もう本当に、いつもなんなのこの子!
<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡
リゾートホテルにようやくたどり着くと、豪奢な建物を背後にした噴水のど真ん中に……デメキン様がいる!
「わあ! デメキン様だよクリフ!」
「拝んだらどうです?」
そうだ、合格祈願をって違う!
「オミソ村にあるデメキン様にしか、俺は合格祈願しない!」
「そもそもデメキン様、ここにいる方が幸せじゃないですか? なんか豪華ですよ」
確かにオミソ村とは比べ物にならない、豪奢な噴水の中にいるデメキン様を仰ぎ見る。でも、違和感半端なくない?
「いや、どう考えたって居心地悪いだろう」
「まあ、そういわれるとそうですけど。あと、なんかアポとってるんですか?」
「俺、帝国ホールディングスが出資した会社に勤めてたんだ」
「ボツボツすごいじゃないですか」
「いや、すぐオミソ国から撤退してリストラくらったけど」
「なんだ。で?」
本当に態度がなあ。もう、少し慣れてきたけども。
「だから帝国ホールディングスの本体の部長と知り合いなんだ」
俺とクリフはまだオープンしていないホテルの中に入る。そこへ丁度本部長が通りかかったため、俺は両手をすり合わせて、小走りに本部長の前に飛び出す。本部長が笑顔で振り向く。
「ああ! サトウ君。久しぶり」
「どうも、ご無沙汰しています。この度はありがとうございます」
俺はペコペコ頭を下げる。
「すみません。お忙しいのに」
「サトウ君の営業成績は素晴らしいものだったからね。本当に会社があんなことになって残念だよ」
「そんな! 僕なんてまだまだです。その節は本部長にご尽力頂いて」
さらにペコペコ頭をさげる。
「支配人には話しておいたから、応接室に行って」
「ありがとうございます!!!」
本部長が立ち去るまで、頭を深く下げ続ける。本部長がいなくなっただろうところで、頭をあげクリフのもとに戻る。
俺は胸を張って、クリフの前に立つ。
「見たか、社会人の力を。ボンボンのお前にはできまい」
「できませんね。コバンザメって本当にいるんですね」
「1年でリストラ食らったんだけど、半年ぐらいで、もうこんな感じに仕上がってたね」
「でも、せっかく良くしてくれた本部長を裏切ることになりませんか?」
「いいんだ。さっき営業成績が良かったとか、持ち上げてきたけど、俺だけ再就職先を斡旋してもらえなかったんだ。負い目があって、今回のことも何とかしてくれたんだろう」
「サトウさん、いい人かと思いきや、ところどころゲスですよね」
「いい人だけでは、社会は渡っていけないのだよ? クリフ君」
今日なんだかオスマシだったクリフが俺にすがりつく。
「社会怖い!!! サトウさんみないな、クズなコバンザメは決して僕には真似できない」
「俺から、厚かましさを学ぶんだろう?」
「いやだ! あんなクズな真似はしたくないです!」
割り切ってても、そこまで言われると傷つくよ!?
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