第2話 モンスターの損害賠償請求を解決せよ!

  えー! ただのテキストですよご主人。表紙に『○○年合格目標』って書いてある予備校で一番の人気講師のテキストですよ!


 村人達の熱い視線が俺に降りかかる。


「私は弁護士のサトウです!」

 言っちゃったー。しかも、一人称が私!

「なんか、一角の人っぽくみえたもん」

 村人の一人が言う。え? マジで。生まれて初めて言われたよ。まあいいや。


 金持ちが憤っている。

「じゃあ、民事だ! 損害賠償請求だ。賠償してもらおうか!」

「ちょい待て。なんで賠償金が発生するか言ってみろ」

「いや、だってマーガレットちゃんが怪我を」

「いいだろう。そこまでは合ってる。しかしだな、過失相殺だ!」

「お前がマーガレットちゃんを、ちゃんと見ていなかった過失でその賠償を相殺できるんだよ」

 デデーン。どうだ。


「本当に、弁護士なのか」

 

 村人がキラキラした眼差しで俺をみている。俺は弁護士ではない。でも、いいや、この村にそんなに長くいるわけじゃないし。今だけ、いい気分を味わおう。


「そうだ! 本当に弁護士のサトウだ!」

 

 村人達の喝采が起きる。わー、気持ちいい!


 立場がなくなった金持ちが、まだ引き下がらない。

「お前、私を誰だと思っている」

 気が大きくなった俺は、つい言ってしまう。

「財力しか取り柄のない、田舎の金持ち」

 金持ちが怒りで震えている。怒らせすぎたかな。ちょっと怖いかも。

「……そうだ。金持ちだ。専属の弁護士がいるのだよ私には! 先生!」


 背後にスラリと背の高い、いかにも出来そうな若者が出てきた。

「こちらは弁護士の先生だ」

 ウソ、弁護士を連れて歩いてるの? そんなことある? てか最初から出てくればよくない? 若者が、ハキハキと話す。


「こうして話していても拉致があきません。この後は裁判で。過失相殺と先程、おっしゃっていましたが、不法行為の場合、必ずしも行うとは限りません」


 マジで!? 裁判!? ムリ! 何故って? 訴訟代理権ないから。弁護士じゃないから。ヤバいな……。


 うーん。でも、こいつ俺より若そうだし、こんな奴について回るくらいだから、大した弁護士じゃないんじゃない?


「お前、仕事がなくて、タブついてる弁護士だろう」

 若造の顔が曇った。


「俺は有名事務所に所属していたことがある弁護士だ! 今はいろいろあって、この村にいる!」

 

 うーわー。もう、嘘八百。どうにでもなれ! にしても若造があきらかにビビッている。効果があったみたいだ。よし、畳みかけるぞ!


 俺は、やり手弁護士を装って賢そうに言ってみる。

「契約関係にない以上、不法行為で訴えることになりますね? 確かに不法行為の場合、過失相殺は必ずしもするものではありません」

「そうですよ」

「ですが、不法行為ということは、原告が、損害および加害を立証しなくてはいけませんよ」

「ええ……」

「知らないとは言わせません」


 深呼吸して俺はビシッと指をさして言う。


「立証責任あるところに敗訴あり!! この状況でそれを証明することは困難。現にマーガレットちゃんは無傷だ!!!」


 若造が黙る。そしておもむろに口を開ける。

「本当に弁護士なんですね」

 村の人以外、俺が弁護士って信じないよね。実際、違うんだけども。

 若造が金持ちに話しかける。

「ダメです。この件は勝ちようがありません」

「何!? 何のためにお前を雇ってるんだ」

 揉めながら、若造と金持ち、マーガレットちゃんはその場を去って行った。


 村人達の羨望の眼差しがすごい。もう、後には引き下がれないかも。

 ララちゃんが笑顔で俺のことを見上げる。

「ありがとうな」

 なんて微笑ましい。弁護士ってなんて、いい仕事なんだ。いや、弁護士じゃないんだけど。


<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡


 本物の弁護士に勝ったことで、勉強のモチベーションも上がり休憩室で勉強していると、この前の若造がやってきた。


「こんにちは」

 当然に俺は焦る。

「え? 何しにきたの?」

「あなた、弁護士じゃないですよね?」

「え………」

「登録を洗いざらい確認しましたが、『サトウ』なんて名前はありませんでした」

 俺は固まる。そりゃそうだよ、弁護士じゃないもん。

「勝手に弁護士を語ると刑罰をくらいますよ? 報酬を得る目的じゃなくても危ないですよね?」

 笑顔の若造がそこにいる。バチが当たるってこのことかな。俺はまだ見ぬデメキン様を拝む。

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